こくほ随想

医療介護総合確保推進法の成立

6月22日に今年の通常国会が閉幕した。この国会で、政府提案の「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律案」(医療介護総合確保推進法案)が6月18日に可決成立した。

昨年12月に成立した「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律」(いわゆるプログラム法)で、政府はこの通常国会に医療制度と介護保険制度の改正法案を提出することが義務付けられていた。医療介護総合確保推進法案は、この規定に基づき国会に提出されたものである。この法律の成立によって、①この4月からの消費税率の引き上げ、②その財源を社会保障に充てることを盛り込んだ今年度予算、③やはり4月から実施された診療報酬改定とあわせて、「社会保障と税の一体改革」のフルラインが揃ったことになる。

「一体改革」では、医療・介護分野について、2025年度までに『あるべき医療・介護の提供体制』を構築していくことが目標とされている。これまでのわが国の医療政策の歩みは、老人医療制度を含めた医療保険各法の改正の歴史であり、医療費をいかに賄っていくかというファイナンスをめぐる改革がほとんどであった。これに対し、医療サービスの提供体制(デリバリー)に関する改革は、皆保険の成立から四半世紀が経過した1985年にようやく医療法の改正が行われ、病床規制制度がスタートしたことにみられるように、立ち遅れており、その後の経過も遅々たるものであったと言わざるを得ない。

だからこそ、2012年の3党合意に基づき、自民党の主唱による社会保障制度改革推進法によって設置された社会保障制度改革国民会議(国民会議)では、国民皆保険を維持するためには医療そのものが変わらなければならないし、医療提供体制の改革が必須であるとする報告書を2013年8月6日に取りまとめたのであった。

国民会議は、『制御機構がないままの医療提供体制』がわが国医療の一番の問題であるとしている。医師が医療法人を設立し、病院等を民間資本で経営するという形(私的所有)が『医療問題の日本的特徴』であり、そこでは政府が強制力をもって改革ができないので、『データの可視化を通じた客観的データに基づく政策』、『データによる制御機構をもって医療ニーズと提供体制のマッチングを図るシステムの確立』が必要であるとする。

このたび成立した医療介護総合確保推進法では、医療機関が都道府県に病床の医療機能(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)等を報告し、都道府県は、それをもとに『地域の医療提供体制の将来あるべき姿』=地域医療構想(ビジョン)を医療計画で策定することが求められている。

この『病床機能報告制度』とは、医療機関がその有する病床において担っている医療機能の現状と今後の方向を選択し、病棟単位で都道府県に報告するものである。2014年10月から実施される。都道府県は報告された情報等を活用して、2015年度から地域の医療需要の将来推計や二次医療圏ごとの各医療機能の将来の必要量を含め、その地域にふさわしいバランスのとれた医療機能の分化と連携を適切に推進するための地域医療ビジョンを策定し、医療計画に新たに盛り込まなければならない。

診療報酬制度において2003年から導入されたDPCのデータや、急速に進んだレセプトデータの電子化が『データに基づく制御機構』の実現可能性を高めてきた。国は、都道府県における地域医療構想(ビジョン)策定のためのガイドラインを作らなければならない。国民会議は、データ解析のために国が率先して官民の人材を結集して先駆的研究も活用し、都道府県・市町村との知見の共有を図ることを提言している。これを受け、政府の社会保障制度改革推進本部に専門調査会が設置されるなどの体制整備も図られている。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

 

←前のページへ戻る Page Top▲