こくほ随想
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高齢者医療確保法制定の意義「2025年問題」ということがいわれている。国立社会保障・人口問題研究所は、2002年1月に「2025年には、人口が1億2113万6000人、75歳以上人口が2026万1000人になる」という人口推計値を発表した。これを受けるように2003年3月に「医療制度改革の基本方針」が発表され、そこで示された基本方針を具体化することを目指し、国民的議論を広く進めるためのたたき台であるとして、2005年10月に厚生労働省は「医療制度構造改革試案」を公表した。 試案では、「新たな高齢者医療制度の創設」として、「75歳以上の後期高齢者の医療の在り方に配慮した独立保険を創設する」とされた。2025年には75歳以上、後期高齢者が2000万人を超えるということが推計される中で、これらの後期高齢者を国保のもとで、これまでのように面倒をみていくことはできない。だとすれば、後期高齢者のための独立した医療保険制度を創設しなければならない。特記すべきは、その試案の冒頭において「予防重視の新たな取組」ということがいわれたことである。 日本人の平均寿命は、1986年に男女ともに、世界一の記録を達成した。2000年には、男が77.72年、女が84.60年で、男は世界のトップグループ、女は断トツの1位を続けている。こうして平均寿命が長く、延長を続けているということは、人びとがそれだけ健康になっていることによるはずである。しかし、この間の国民医療費の推移を見ると(表参照)、これはどうしたことか、国民医療費は平均寿命の延長とは無関係なように、1年に約1兆円、10年間に10兆円のコンスタントな大きな増加を続けている。平均寿命が延びて進む人口の高齢化が、そのまま国民の医療需要をつくり、医療費を増加させている。だとすれば、推計されているように後期高齢者人口が2000万人を超える状況になった時、そのことがそのまま国民の医療需要をつくるとすれば、発生する医療費に日本の社会はたえることができるのか。 国民皆保険体制を基盤とした医療の充実によって、死亡との闘いがすすみ、死亡率は減少して平均寿命の延長は達成された。しかし、そのことがそのまま国民の健康が増進していることを意味しているのではない。いわばただ「元気な病人」をつくっているだけかも知れない。結果として医療費の高騰が続く。だとすれば、疾病の予防に本格的に取り組まなければ医療費の高騰を抑えることができない。 平均寿命世界一の記録がつくるともいえる医療費の高騰に、どのように立ち向かうのか。 わが国は、まさに人類未曾有の課題に直面しているといえるだろう。だからこそ高齢者医療確保法の制定(2006年)にあたって、いの一番に「予防重視と医療の質の向上・効率化のための新たな取組」ということがいわれ、特定健診・保健指導が実施されることになった。 後期高齢者単独の制度の創設によって、この制度の医療費を支援する若年者が、平均寿命の延長がつくる後期高齢者の医療費の推移を直接、実態として認識できるようになった。その認識をバネとして、若年者が健診を受け、保健指導のもとに生活習慣改善の実践をすすめ、医療費高騰の抑制を目指すというのが、高齢者医療確保法制定の歴史的な意義である。今日の主役はあくまで若年者であること、そのことを改めて確認しておきたいと思う。 記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉
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