「少子化対策(1)」エンゼルプランから児童手当
ここ20年、総花的な幾多の子育て支援策が講じられ、そのたびに全国的キャンペーンが繰り広げられたが、少子化は進行している。平成元年、高齢社会の到来とともに1.57ショックが少子化の警鐘を鳴らし、平成6年のエンゼルプランでは働く女性のための保育拡充を少子化対策の中心に据えたが、出生率は 1.38(平成10年)まで下がり続けた。
平成11年の「新エンゼルプラン」は、地域の子育て環境にも目をむけ「地域子育て支援センター」の拡充など、就労関連以外の子育て全般の支援策が増えた。続く平成15年の次世代育成支援対策推進法は、地方自治体と事業主に子育て関連の行動計画を義務付け、少子化対策を国全体に浸透させる目論見だった。
並行して規制緩和と民間活力導入を掲げる小泉内閣は、待機児ゼロを掲げて認可保育制度にメスを入れ、乳児保育の定員数拡充のための認証保育、公立保育園の民営化へ誘導した。しかし、出生率は1.26(平成17年)まで最低を更新し続け、この辺で従来の両立支援という働く母親中心の少子化対策は、大きく方向転換を迫られることになった。
そこで平成16年の「子ども・子育て応援プラン」は、専業主婦層に育児不安が多いことに社会の注目を集め、地域の連帯を意図するつどいの広場事業、未就労の母親が利用できる一時保育拡充をうちだした。企業事情や雇用環境、また通勤事情から、不本意ながら専業主婦を選ばざるを得なかった多くの母親に目を向けさせたことは、画期的なことだった。
共働き世帯のためにも幼稚園の預かり保育や学童保育の充実、新しい事業では不妊症治療費助成が登場した。しかし、従来のプラン同様、障害児や児童虐待、一人親対策まですべて網羅され、もともと高齢者関連に比べて小さい予算がより細分化され、目だった効果に結びつかなかった。ところが平成18年、わずかに出生率が回復した。施策関係者は過去の取り組みが報われたかと喜んだが、景気回復の兆しのためまた下がる可能性が大きい。
ここで、「今後1、2年、出生率がわずかに上昇するという一縷の望み」を託せるのは、今年4月から実施された第1子から1万円の児童手当拡充だろう。昨年の4月に支給期間が小学校3年までから6年までに延長され、児童全体の90%まで受給者を拡大した矢先、第2弾の効果は大きい。
従来は3人目で初めて1万円の支給で、受けられるのは子どものいる世帯の15%程度だった。1人目から毎月1万円が12歳まで支給されることは、特に子どもが2人、3人の世帯には長期の所得増だ。乳幼児ではおむつ代とミルク代、小学生ではおやつとけいこごとの月謝くらいだが、「児童手当は助かるわ」「将来の教育費に貯金するわ」と巷のお母さんたちの評判は上々だ。これを欧州諸国のように3人目から倍にすると、次子の出産を迷っている夫婦を後押しすることになり、出生率は確実に上がるはずだ。
児童手当や育児手当など現金給付による育児支援策は、日本では「効果が不明」「安易なばらまき」「財源がない」と評判が悪い。一方出生率の上昇で出産ブームに沸くフランスでは片手にあまる育児関連の現金給付メニューがあり、受給額も乳幼児3人ならパート賃金に遜色ない収入になる。これは北欧も同様で出産奨励を全面に出し、3人目の児童手当は1.5倍から2倍で、多くが18歳まで、大学卒業までの国もある。
日本でフランスと同じ現金給付を実現するには10兆円が必要といわれるが、高齢者の介護と医療費総額のおおよそ半分くらい、消費税の4%弱に当たる。若い世帯は所得が少なく借家か住宅ローンの負担も大きい。「子育ては楽しい」のキャンペーンより、安定した生活を保障する現金給付のほうが、はるかに効果ある育児支援策だと思うがいかがだろう。
記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉