こくほ随想

「年金制度を支えるのは誰?」(年金制度への信頼度の世代による違い)

 社会保険庁の年金記録問題は大きく社会を揺るがした。すでに支給されている受給者から退職間近の受給予定者まで、払い込み期間の空白が支給額に影響しないよう確認相談が殺到した。5千万件もの不明の年金番号の存在は、まとまりかけていた社会保険庁の組織改変だけでなく、政府や年金制度への信頼低下にまで及んだ。少額の受給額の違いも長期にわたれば大きい。将来の生活がかかっており真剣になるのも当然である。しかしこの騒ぎ、若い世代はちょっと冷ややかに眺めている。
 つまり年金制度への信頼度は世代によって大きく違いがあるように見える。一定の加入期間と納付期間があれば、決められた額を最後までもらえる権利が保証されているのが年金制度だ。現在の受給者は当然だが、50代以上の退職見込み者も支給開始年齢は引き上げられたものの、基本的には65歳から死ぬまで年金は受け取れると確信している。一方支える側の若い20、30代は、自分たちが将来、生活を支えるに十分な給付額を受け取れるのか疑問を持ち、また払い続けた保険料総額の2倍ほども生涯の年金で受け取れないことをうすうす知っている。年金制度とは発足当時の年齢や経済変動で不公平が出るのは当然だが、人口構造の激変によって今の若い世代は割を食ってしまった。
 世代による不公平感は年金への信頼感を失わせ、若者の年金離れ、国民年金加入率が半分に近いことに現れている。「収入が少ないから払えない」、「年金教育の不足で制度が理解されていない」といわれるが、今の賦課方式という年金制度の仕組みを知れば知るほど、支え手の減る日本では若い世代の不利が明白である。賦課方式で制度設計をした頃、これほど高齢化の進行と出生率低下が著しくなると予測されなかったこととはいえ、少子高齢化進展のこの20年、対応策は後手後手に回っている。
 年金制度の信頼度に世代での温度差があること、特に支える側に不信感があることで将来の持続性に不安がよぎる。社会保障や高齢化で先輩格である西欧先進諸国は、世代間の不公平感、特に現役世代が不満をもたないよう最重要課題として取り組んでいた。もともと若い世代の政治参加も旺盛なため、家族政策として子育てや雇用・教育に社会保障給付の配分を多くしている。画期的なのはスウェーデンで、1999年、賦課方式部分を減らし積み立て方式を導入して改革に取り組んだ。
 確定給付型から確定拠出型に移行して、高齢化の負荷を次の世代に負の遺産として残さずに現役世代が負うよう世代間での完結的な仕組みにしたのだ。年1回、個人宛に将来の年金受給見込み額を郵送通知するシステムも導入され、個人の自己責任の部分を拡大した。女性の社会進出への対応として育児休暇制度なども充実して、出生率も下がっていない。さて日本では、年金制度の抜本的改革や社会保障の世代間の分配や配慮など「世代と世代の助けあい」を裏付ける努力がなされているだろうか?
 出生率については、2006年の合計特殊出生率が6年ぶりに上昇した。1・29から1・32と微々たるもので持続すると楽観はできないが、ささやかな明るいニュースであった。要因は団塊ジュニアが結婚・出産期を迎え、そのムードが周辺世代に波及したともいわれるが、景気回復による失業率の低下と若い世帯の所得増が最も大きな要因である。雇用と収入が安定すれば、若い男女は将来に希望をもって結婚、出産に意欲的になれるというわけだ。
 若い人が意欲的に働き子育てできる社会にしないと、年金制度はもとより、日本の社会経済が沈滞化、疲弊してしまう。年金だけでなく、医療も介護も支えてもらう立場としては、スウェーデンのような年金改革ができないなら、せめて全世代痛みわけの消費税によって基礎年金部分を賄うことも仕方ないのではと、娘や孫の顔を思い浮かべて想う。

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

←前のページへ戻る Page Top▲