「なぜ?」+「否定文」をやめれば、シンプルに気持ちが伝わる

「なぜちゃんと報告してくれないの?」
「キミがちゃんと報告してくれないから、ボクも状況がつかめなくて、
すぐにサポートできないじゃないか!」
こんな言い方で部下を叱る上司のように、自分にとって好ましくない状況が起こっていることを相手に伝えたい場合、私たちは、「なぜ?」+「否定文」を使ってしまうことがよくあります。

なぜ報告しないの?報告してくれないから、状況がつかめなくて、サポートできないよ!

この部下に対する上司の発言には、「なぜ?」に加えて「否定文」が4つも含まれています。

「なぜ?」が使われる場面では、必ずしもその理由を問われているわけではありません。たいていの場合、理由を言ったところで仕方がないこと、理由を言ったら余計火に油を注ぐことを、注意した本人も注意された相手も経験的に知っています。加えて「なぜ〇〇しないの?」という言い方も、相手に対して「本当にしてほしいのにしなかったこと」を責めているだけです。だから、相手はただ「申し訳ありません」と詫びることになります。

また、「なぜ?」と一緒に「否定文」を使うと、仮に相手に非があったとしても、相手が感情的に受け止めたり、嫌みに捉えられたりしやすく、発言の本意がきちんと伝わらないことも多いのでは。

だったら、「すぐに状況をつかんで、サポートしたいから、報告はきちんとしてほしい」と肯定的に表現してみてはどうでしょう。この方が、本来してほしかったことが確実に伝わり、言われた相手も「悪かった」「そうしよう」と納得しやすいに違いありません。

どうしてみんなが参加できる時間帯で会議を設定しないのですか!?

ある会社の部内ミーティングでの出来事。担当マネージャーが、翌週に控えた戦略会議を14時~15時という時間に設定したことを告知しました。しかし、日中は多くのメンバーが外出しているこの部署では、重要な会議は17時から開くことが暗黙のルールになっていました。そこで不満を覚えたメンバーの一人が、上記のように発言します。

語気も荒かったため、その場の空気は一変。担当マネージャーは、「ゴメンナサイ。他部署と合同で開くものだから、両者が合う時間帯にしたのですが、みんなが参加しやすい時間帯に再度調整しますね」とその場を収めました。

「どうして〇〇しないのですか?」これでは、言葉の端々に「怒り」が見え隠れするだけでなく、その場にいる全員を緊張させ、ムードも悪化するため、効果的ではありません。

訴えたいのは、「みんなを会議に参加させたい」ということ。もし、「多くのメンバーが参加できる時間帯に会議を設定していただきたいのですが」などと言えば、お互いの関係を崩さずに、してもらいたいことを率直に伝えることができたのではないでしょうか。

「なぜ?」と「否定文」を使わず、肯定的に表現する工夫を

イラスト

「なぜ?」「どうして?」と「否定文」を使わないだけで、伝え方ははるかにシンプルになります。さらに、相手との関係を良好に保つことができ、伝えた本人も気分がいいはず。

例えば、上司が部下にハッパをかける場面。「この作業が終わらないと土日も出なきゃならないぞー」と言われると脅されているみたいに感じますが、「この作業を早く終わらせて、土日はしっかり休みを取ろう!」という表現であれば、「みんなで頑張ろう!」という気持ちになれませんか。

家庭でのコミュニケーションも同じです。宿題を放り出して遊んでいる子どもに「宿題が終わらないとゲームはやらせないわよ」と言う代わりに、「宿題が終わったらゲームしてもいいわよ」「ゲームするなら、宿題が終わってからね」と表現した方が穏やかに会話できます。

自分の気持ちや考えをストレートに伝えたいのであれば、できるだけ肯定的に表現する工夫をしてみましょう。色々な場面で使える、ちょっとしたコミュニケーションのコツです。

田中 淳子(たなか じゅんこ)

グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。1986年日本DEC入社、IT技術教育に従事した後、コミュニケーションなどビジネススキル教育を手掛けるようになる。1996年から現職。著書に『はじめての後輩指導』(経団連出版)、『現場で実践!若手を育てる47のテクニック』(日経BP社)など。

メニューへ戻る

Copyright (C) 社会保険出版社 All Rights Reserved.