即答で「NG」と言わず、いったんは検討してみる

デパートなどのセールで、欲しい服や靴が見つかったものの、希望のサイズが店頭になく、店員さんに「このデザインで、サイズ違いはありますか?」と尋ねることがあります。このとき、「出ているだけです」と即答されて、ガッカリした経験はありませんか?中には「ちょっとストックを見てみますね」と言って、在庫をチェックした後に「ごめんなさい!出ているだけでした…」と言われることもあります。この場合、結果が同じであっても、後者には少しでも自分のために動いてくれた、という実感があるため、受け止め方に違いが出てくるのではないでしょうか。

キャリア採用の若手メンバーを育成している男性Aさんは…

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ある日上司に「キャリア採用といっても、当社での仕事は未経験です。しばらく、私と一緒にクライアント先を訪問させたいのですが、よろしいですか?」と提案しました。すると、上司は、提案の意図や思いも確かめず、「ダメだよ。お客様に迷惑を掛けてしまうから」と即NG。「最初に一緒に回った方が、結果的には育成の効率が良いと思いますし、お客様にも迷惑が掛からないようにしますので」と食い下がってみたものの、上司はダメだの一点張りだったそうです。

Aさんは、「自分の話の持っていき方が下手だった。上司を上手く動かすのも部下の仕事の一つだからなぁ」と反省していました。しかしこのとき、上司がまずは部下の言葉に耳を傾け、検討する姿勢を示していたら、「やはり、今の時点ではNG」という結果だったとしても、彼の納得度は違っていたかもしれません。

夫婦共働きで、未就学児を育てている女性Bさんは…

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子どもが熱を出し、保育園を休まざるを得ないときに、どうしても外せない仕事があって、夫に「できれば休暇を取ってもらえないか」と相談しました。すると、夫は「急に休みが取れるわけがないだろう」と即答したそうです。休暇が不規則な職場に勤める夫が休みを取れないだろうことは予想していたものの、自分も仕事を抱えて悩んだ末の相談だっただけに、せめて「ちょっと検討してみる」とか「確認してみる」などと言ってくれたらどんなに良かったか、と彼女はこぼしていました。

ここでは、女性を例に挙げましたが、男性だって同じ思いをしたことはあるはず。妻が自分の話を一度は受け止めてくれれば納得できるのに…と言いたくなるような場面は、多かれ少なかれあるかと思います。

「叶えられない」結果より「検討してみる」過程が関係を良くする

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私たちは、誰かに何かをしてもらいたいとき、その願いが叶わなければがっかりしますが、そのがっかりは、「叶わなかった」という結果より、「検討してもらえなかった」という“過程”に起因することも多いと考えられます。「結果がNGかどうか」より、「いったんは検討してくれた」ということの方が「納得度」に強く影響するのではないでしょうか。

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コミュニケーションが上手な人は、このあたりをきちんと心得ていて、相手の言い分をいったんは受け止め、検討しようとします。「検討してみたけど、ダメだった。期待に応えられずごめんね」と言われれば「仕方ないか」と思いやすいのでは?

相談や要望を持ちかけられたときには、「絶対にダメだ、これは無理だ」と分かっていたとしても、「検討する」あるいは「検討する姿勢を示す」。相手の納得度を高め、相手との関係を必要以上に崩さないために、ぜひお試しください。

田中 淳子(たなか じゅんこ)

グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。1986年日本DEC入社、IT技術教育に従事した後、コミュニケーションなどビジネススキル教育を手掛けるようになる。1996年から現職。著書に『はじめての後輩指導』(経団連出版)、『現場で実践!若手を育てる47のテクニック』(日経BP社)など。

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