監修:古賀良彦(杏林大学医学部精神神経科学教室教授)
たかが睡眠不足と侮っていませんか。睡眠不足は、疲れがとれないだけでなく、高血圧や肥満、がんなどにも影響します。
生活習慣病を予防・改善するためにも、良い睡眠は必須なのです。
私たちの心身は、睡眠不足があると、メンテナンスが十分にできなくなります。睡眠不足はメンタルヘルスだけでなく、生活習慣病などとも深い関係があるのです。
ここでは、様々な研究により明らかになってきた生活習慣病と睡眠の関係をご紹介します。
眠りの間に行われていること
① 脳の休息 ②記憶の整理・定着
③ 疲労の回復 ④内臓や筋肉のメンテナンス
⑤ホルモンの分泌 ⑥免疫機能の維持・増強
睡眠不足が続くと食欲を増進させるホルモン「グレリン」が増え、食欲を抑えるホルモン「レプチン」が減ります。そのため睡眠不足は、食べ過ぎを招き、肥満になりがちです。深夜にお腹がすいて眠れなくなるのも、こうした影響かもしれません。
肥満になると、脂肪細胞からアディポサイトカインと呼ばれるホルモン様物質が色々と分泌されます。その多くは、生活習慣病(糖尿病・高血圧・脂質異常症など)を引き起こす作用があることがわかっています。
肥満が糖尿病の原因となることはよく知られていますが、睡眠不足はまた、インスリンの働きを悪くします。これをインスリン抵抗性といいます。インスリンは血糖値を下げる唯一のホルモン。働きが悪くなれば、血糖値が下がりにくくなり、糖尿病へと進みます。
睡眠不足だと交感神経が優位な状態が長く続きます。血圧は交感神経が優位だと高くなるので、睡眠不足だと、なかなか血圧が下がらなくなります。また、睡眠中に何度も目覚める場合は、その間、交感神経が優位に働くので、睡眠の質も低下するのです。
肥満の人に多く、就寝中の大きないびきや呼吸停止にパートナーなどが気づいてみつかることが多い病気です。
睡眠中にのどの筋肉がゆるむと、肥満者ではのどにたまった脂肪が気道を塞ぎます。苦しさでしばしば目が覚め、睡眠不足となり、日中に眠気があらわれます。
さらに、無呼吸等により取り入れる酸素が減り、ヘモグロビンが増え過ぎて血液がドロドロになり、心筋梗塞や脳梗塞を招いてしまうのです。
がんは、遺伝子が変異することから始まり、がん細胞は約20年もかけて細胞分裂を繰り返し、徐々に大きながんとなります。
免疫にはがん化を抑制する働きもあり、体の状態が良いときはその作用がきちんと働きますが、睡眠不足だと免疫力が低下し、がんの増殖を抑制できなくなります。
生活習慣病は、生活習慣が大きな原因となる病気ということです。睡眠もまた、これらの生活習慣とは密接に関係しています。
たとえば睡眠不足だと日中眠くなり、活発に活動できず、本来身体活動で使うはずだったエネルギーが余って肥満を招きます。
またお酒やお茶には利尿作用があり、寝る間際に飲むと途中で起きることが多くなり、睡眠不足に。特にお酒は、睡眠の質の低下を招きます。
今現在、生活習慣病と診断されていない人も、このような生活習慣があれば将来生活習慣病にも睡眠障害にもなる確率が高くなるのでご注意ください。
人間は長い間、日が昇ると起き、日が沈むと眠るという生活を続けてきました。また、食べ過ぎて太るようなことは、生活に余裕があるごく一部の人に限られていました。体を使って働き、夜は疲れで熟睡したことでしょう。こうした生活のもとでは、生活習慣病は少なかったに違いありません。
生活が便利になった世の中だからこそ起こる不眠や生活習慣病は、まさに現代社会だからこそ起こる「現代病」といえるでしょう。本来の生体リズムにできるだけ近づけた生活を送り、心身ともにイキイキと暮らしたいものです。