共済組合担当者のための年金ガイド
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- 【第99回】2024年9月号
遺族厚生年金はどう変わるのか?
-60歳未満の男女はともに5年間の有期給付へ-
令和6年(2024年)7月30日に開催された、厚生労働省の社会保障審議会・年金部会において、遺族年金制度の見直しの方向性が事務局より示されました。
7月30日に提出された【資料4】【遺族年金制度等の見直しについて】および当日の年金局の説明を聞いていても、審議会での委員からの意見を踏まえ、今後さらに見直しされる可能性があるということが感じ取れます。
たとえば、【資料4】【遺族年金制度等の見直しについて】の10頁・11頁を見ると、『有期給付化の具体的な施行イメージ』の箇所では、「※図で示している内容は検討中のものであり、変更はあり得る。」(黄色の網掛けは、筆者による)、と注記が記されています。
また、別の頁でも、「※上図における有期給付の対象年齢は検討中のものであり、今後の変更はあり得る。」(6頁、『目指す姿(十分な時間をかけて移行)』の箇所。黄色の網掛けは、筆者による)との注記が入っており、あくまでも7月30日時点での厚生労働省の「見直しの方向性」ということを理解しておく必要がある、と考えています。
とはいえ、社会保障制度の未来がどうなるか、全くわからないままでいいとは思えませんので、年金部会に提出された資料および議事録、あわせて、元・年金局長の高橋俊之氏(現・日本総合研究所特任研究員)が執筆された論文(*)などを踏まえて、現時点(令和6年9月8日時点)で、筆者が理解している範囲内という限定付きですが、いくつかの項目にポイントを絞って、厚生労働省の見直しの方向性について述べていきます。もちろん、「見直しの方向性」すべてを網羅しているものでないことは、あらかじめお断りしておきます。
(*) | 日本総研のホームページに掲載された『年金制度改正の議論を読み解く』の「第5回 遺族年金制度の仕組みと論点(2024年5月)」「第8回 遺族年金制度等の見直しの方向性(2024年8月)」など。 |
見直しの方向性のキーワードは、男女差の解消!
遺族年金の見直しの方向性について、現行制度はこうなっている、ということから解き明かしていくと、説明が長くなりますので、本稿では、見直し後はこうなる(見通し)という視点で、解説を進めていきます。
見直しの方向性についての重要なポイントは、「男女差の解消」という視点です。
したがって、現行制度で、男女差のある次の項目については見直しされる方向性にある、と筆者は認識しています。
(1) 男女とも、60歳未満で受給権の発生した遺族厚生年金は、終身ではなく、5年間の有期給付へ。
改正法施行時(「N」年度)に、現行の「30歳未満の妻」の5年間有期を「40歳未満の妻」に年齢を引き上げる。
以後、毎年度1歳ずつ、年齢を引き上げ、20年後の「N+20」年度には、60歳未満の妻すべてについて遺族厚生年金は「5年間の有期給付」とする。
つまり、改正の施行日に40歳未満である生年月日で特定し、それ以降の人に適用する形になる、と思われる。
一方で、夫については、施行時(「N」年度)に60歳未満のすべての人を対象に、5年間の有期給付を適用する。
したがって、「N+20」年度には、60歳未満のすべての男女が、5年間の有期給付となり、男女差は解消する。
そして、60歳以上で受給権の発生した遺族厚生年金については、無期給付(終身)とする。ただし、65歳以上になると、自身の老齢厚生年金が優先支給になるのは、これまでと変わりない。
(2) 中高齢寡婦加算(令和6年の金額:612,000円)は廃止へ。
中高齢寡婦加算については廃止する。ただし、一気に廃止するのではなく、時間をかけて段階的に廃止する。
毎年度逓減し、25年後の「N+25」年度(*)に「0円」とし、廃止となる。新規の受給権者から逓減され、その後も逓減された金額を受給する(後述)。
年金部会の【資料4】10頁・11頁のイメージ図から、筆者が推測するところ、毎年度1/26ずつ逓減していくと、25年後には中高齢寡婦加算は終了となり、加算はなくなる。
(*) | 年金部会の【資料4】11頁のイメージ図では、「N+25」年度で「○新規の中高齢寡婦加算終了」(原文赤字)と記されているので、1/26ずつの逓減とした。 これは、「N年度」において40歳の人(現行制度の無期給付の対象となる最小年齢の人、たとえば40歳10か月)が、「N+24年度」に64歳(中高齢寡婦加算の最高年齢、たとえば64歳10か月)になって死別しても、中高齢寡婦加算が少額ではあるが加算されるため、このような制度設計になっているのではないか、と思われる。 「N+24年度」に新規に受給権の発生した中高齢寡婦加算 <令和6年度の金額による試算> 612,000円×1/26=23,538.46≒23,500円 (筆者が、50円以上切り上げ、50円未満切り捨て、という前提で端数処理した) |
年金部会の【資料4】10頁・11頁のイメージ図をもとに、(1)(2)をあわせた内容を表に作成したのが、【図表2】【遺族厚生年金制度の見直しの経過措置イメージ図】である。
<下線をクリックすると、【図表2】にアクセスできます>
(3) 「5年間の有期給付」制度の導入で、3つの配慮措置を創設。
終身の無期給付を廃止し、「5年間の有期給付」制度を導入するため、従来と比べると、受給期間が短くなるので、「死亡直後の生活再建支援」の観点から、3つの配慮措置を創設する。
①「死亡時分割」制度の導入
死亡した配偶者との婚姻期間中の、厚生年金保険の被保険者期間に係る標準報酬等を分割する。
離婚時の「合意分割」をイメージすれば、よいかと思われる。
65歳から自身の老齢厚生年金に上乗せして支給される(後述のQ&Aを参照されたい)。
②収入要件の見直し
850万円未満という収入要件を撤廃する。
収入要件を撤廃するというのは、あくまでも、「有期給付」の場合のみ(佐保委員の質問に対する答弁。審議会議事録より)。終身の遺族厚生年金が支給される場合は、従前通り、と思われる。
③「有期給付加算」(仮称)の創設
年金の4分の3に相当する金額に加え、「4分の1相当の給付を上乗せして、合わせて4分の4とする提案」(年金部会における若林年金課長の説明)。
たとえば、仮に平均標準報酬額が455,000円の夫が、在職中(厚生年金保険の被保険者期間30年)に死亡した場合、妻が50歳(18歳の年度末までの子はいない)だとすると、制度改正後は、
455,000円×5.481/1000×360月×3/4
=673,340.85円≒673,341円
の遺族厚生年金(5年間の有期給付)に加え、
455,000円×5.481/1000×360月×1/4
=224,446.95円≒224,447円
の「有期給付加算」(仮称)<以下、(仮称)の文言は省略する>を5年間受給できることになる。
合計で、673,341円+224,447円=897,788円、すなわち、夫が受給できるであったろう
455,000円×5.481/1000×360月=897,787.8円≒897,788円
を5年間受給できることになる。
他方、制度が改正され、経過措置も終了した後であれば、中高齢寡婦加算612,000円(令和6年度の金額)は支給されない(【図表2】参照)。
(4) 「18歳の年度末までの子」のある妻の遺族厚生年金も「5年間の有期給付」に。
年金部会の審議会資料では、「養育する子がいる世帯(中略)への遺族厚生年金については、現行制度の仕組みを維持する。」(【資料4】6頁、下線は筆者)と記述されているので、何も変わらないと当初は考えていたのですが、関係者に伺うと、どうもそうではなくて、次のように変わるけれども、実質的には変わらないということで、「現行制度の仕組みを維持する」という文言になっている、ということのようです。
すなわち、現行制度の見直しはあり、「18歳の年度末までの子」のある妻の遺族厚生年金も「5年間の有期給付」に変わります。
【図表3】 [18歳の年度末までの子のある妻〕のイメージをご参照ください。
たとえば、夫が死亡し、10歳の子のある妻の遺族厚生年金の支給については、夫の死亡後、5年間は妻に遺族厚生年金が支給され、5年経過後に、遺族厚生年金の受給権は、子(この場合だと15歳から18歳の年度末まで)への支給に切り替わる、ということです。
なお、現行の遺族年金のしくみを詳しく知りたい場合は、日本総研のホームページに掲載された高橋俊之氏(元・年金局長)の『年金制度改正の議論を読み解く』の「第8回 遺族年金制度等の見直しの方向性(2024年8月)」の全文を、てっとり早く知りたい場合は、とりあえず3頁の【遺族年金(基礎・厚生)の様々な受給の姿(現行)】のイメージ図をご覧になるといいと思います。
(5) 「寡婦年金の段階的廃止」と「子に対する遺族基礎年金の支給停止規定の見直し」。
男女差の解消の観点から、寡婦年金についても、段階的に廃止される方向で見直しされます。
また、「子に対する遺族基礎年金の支給停止規定の見直し」では、いままでは支給停止されていた「子に対する遺族基礎年金」を支給されるようにする方向で、見直しが予定されています(年金部会の【資料4】9頁の4つのケースのイメージ図が詳しい)。
以上、見直しの方向性を踏まえ、Q&A形式で、内容の確認をしていきたいと思います。
妻が50歳のときに夫が死亡したら、制度改正後は、
遺族厚生年金の支給はどうなりますか?
Q1 制度の見直し完了後(経過措置終了後)、在職中(厚生年金保険の被保険者期間中)の夫が死亡したときに、妻が50歳の場合は、50歳から55歳までの5年間は、5年有期の遺族厚生年金(夫の老齢厚生年金の4分の3に相当する額)と有期給付加算(夫の老齢厚生年金の4分の1に相当する額)を受け取り、中高齢寡婦加算(令和6年度の金額:612,000円)は、支給されないという理解でよろしいですか?
その後、55歳から65歳までは、働いて収入を得るなりして生活し、65歳からは自分の老齢基礎年金と自分の老齢厚生年金、そして死亡時分割を受けた夫からの老齢厚生年金の分割分を受給するという理解でよろしいのでしょうか?
A1 お見込みのとおりと思います。
死亡時分割とは・・・?
Q2 死亡時分割という制度がよくわかりませんが・・・。
たとえば、死亡した夫が50万円の標準報酬、残された妻が20万円の標準報酬を得ていた場合、どうなりますか?
簡単に説明してもらえませんか。
A2 年金部会でもやはり同様の質問が出ていました。それに対する回答を踏まえると、事務局の案というのは、離婚時の合意分割をイメージしているように思われます。
ご質問の、死亡した夫の標準報酬が50万円、残された妻の標準報酬が20万円の場合、合計した70万円の2分の1である35万円が、死亡時分割の上限になるということです。
そして、「分割の上限35万円-妻の20万円」=15万円で、死亡時分割で15万円分の記録が妻の厚生年金の記録に上乗せされて、妻の厚生年金の記録は「20万円+15万円」=35万円になるということです。
「夫が妻よりも標準報酬が低い場合は、妻が減額されないということでよろしいですか」との確認の再質問でも、「はい、そこは選択できるようなしくみを考えています」と年金課長が答えていましたので、自動的に分割されるというのではなく、答弁だけを聞いていると、選択制のようにも感じられますが、基本的には、多い方から少ない方へのときのみ分割されるしくみになると理解されます。
なお、離婚時分割については、筆者が、本稿の2024年1月号に、【合意分割の対象期間中に、国年3号期間のある場合の離婚分割】を執筆していますので、ご参照ください。
死亡時分割の効果は、再婚しても失われない!
くわえて、年金部会では、年金課長から、「遺族年金は再婚すれば、その時点で失権となって権利を失います。他方で、死亡時分割の効果は再婚しても失われません。」という説明もなされています。
夫の死亡時、
妻が60歳だと無期給付、59歳だと5年間の有期給付
Q3 制度の見直し完了後(経過措置終了後)においては、夫の死亡時、妻が60歳だと無期給付(終身)、59歳だと5年間の有期給付になるという理解でいいのでしょうか。
A3 お見込みのとおりです。
筆者の作成した【図表2】をご覧いただいてもわかるように、たとえば[N+10]年度においては、50歳未満(たとえば49歳)の遺族厚生年金の受給権者は、「5年間の有期給付」になりますが、50歳の遺族厚生年金の受給権者は、「無期給付(終身)」になります。
どこを区切っても、1歳の違いにより、有期と無期の境目というのが存在することになるようです。
なお、制度の見直し完了後(経過措置終了後)においては、男女差については解消されていますので、妻の死亡時、夫が60歳だと無期給付(終身)、59歳だと5年間の有期給付になると認識しています。
「N+10年度」に受給権の発生した中高齢寡婦加算は、
どうやって算定するのか?
Q4 仮に、「N+10年度」に、50歳の妻に遺族厚生年金の受給権が発生した場合(無期給付)、中高齢寡婦加算の要件を満たし、中高齢寡婦加算が加算される場合は、「N+10年度」の中高齢寡婦加算の金額は、「中高齢寡婦加算×15/26」が加算されるという認識でよろしいでしょうか?
A4 お見込みのとおり。
ちなみに、「N+10年度」に新規に受給権の発生した中高齢寡婦加算の金額は、以下のように算定されるものと思われます。
<令和6年度の金額による試算>
612,000円×15/26=353,076.92円≒353,100円
(筆者が、50円以上切り上げ、50円未満切り捨て、という前提で端数処理した)
Q5 そうすると、Q4の妻が、「N+11年度」に、受給する中高齢寡婦加算の金額は、「中高齢寡婦加算×15/26」のままでいいのでしょうか(無期給付なので、従前のしくみは変わらないので、65歳までずっと受給権の発生した年度の減額率が適用)、それとも「N+11年度」には、「中高齢寡婦加算×14/26」(無期給付ではあっても、1年度ごとに逓減率が適用され、翌年度は14/26、翌々年度は13/26の逓減された率が適用・・・)になるのでしょうか?
A5 「中高齢寡婦加算×15/26」のままでいいと認識しています。
「N+10年度」に遺族厚生年金の受給権の発生した49歳の妻は、
中高齢寡婦加算も5年間の有期給付となる
Q6 仮に、「N+10年度」に、49歳の妻に遺族厚生年金の受給権が発生した場合(5年間の有期給付)<中高齢寡婦加算の要件を満たし、中高齢寡婦加算が加算される場合>、中高齢寡婦加算が加算される期間は、「5年間の有期給付」の期間のみという理解でよろしいでしょうか?
A6 「5年間の有期給付」期間のみとなります。65歳になるまでは支給されません。
Q7 (Q6の続き)また、その場合、中高齢寡婦加算についても、
「N+10年度」は「中高齢寡婦加算×15/26」
「N+11年度」は「中高齢寡婦加算×14/26」
「N+12年度」は「中高齢寡婦加算×13/26」
「N+13年度」は「中高齢寡婦加算×12/26」
「N+14年度」は「中高齢寡婦加算×11/26」
「N+15年度」は「中高齢寡婦加算×10/26」
(受給権が発生してから、5年間(60月)支給されるので、このように記した)
と、毎年度逓減され、
この事例の場合、「N+15年度」の5年間が経過したところで、中高齢寡婦加算の金額は、支給されなくなるという認識でよろしいでしょうか?
A7 「中高齢寡婦加算×15/26」のままと認識しています。
くり返しになりますが、中高齢寡婦加算は、「5年間の有期給付」の上に加算されているので、「中高齢寡婦加算×15/26」のまま、5年間支給されるものと認識しています。
「5年間の有期給付」にせよ、「無期給付」に加算される逓減された中高齢寡婦加算にせよ、受給権の発生した年度の減額率がそのまま用いられるものと認識しています。
Q8 「N+20年度」に、妻が40歳のときに、一定の要件を満たす夫が死亡した場合、遺族厚生年金は「有期給付」となるが、中高齢寡婦加算については、減額された中高齢寡婦加算(この年度における満額の中高齢寡婦加算の5/26に相当する額)が、「有期給付」に加算されて5年間支給されるという認識でよろしいでしょうか?
A8 筆者の認識では、お見込みのとおりです。
いずれにしても、来年(令和7年)の通常国会に提出される法案を見ないとなんとも言えない項目もありますし、経過措置がかなりあるようですので、詳細はわからないことが多々あります。
筆者の作成した【図表2】についても、現時点でわかる範囲内で作成したものですので、法案が成立し、政令等が出された段階で、また「遺族年金の見直し」についてはご報告していきたいと思います。