共済組合担当者のための年金ガイド
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- 【第98回】2024年8月号
所得代替率61.2%は
どうやって計算するのか?
令和6年(2024年)7月3日に、社会保障審議会・年金部会で財政検証の結果が公表され、令和6年度(2024年度)の足下(あしもと)の所得代替率は61.2%、という数値が示されました。
ところで、年金部会で示されたデータを単純に計算しても、61.2%の値にたどり着けないという質問が寄せられています。
はたしてどういうことなのでしょうか?
今月はQ&A形式で、所得代替率61.2%の算出方法に迫ってみたいと思います。
所得代替率は(13.4万円+9.2万円)/37.0万円=61.08%で、
端数処理をしても61.2%になりませんが・・・
Q1
令和6年(2024年)7月3日に開催された第16回社会保障審議会・年金部会に提出された【資料1】の1頁に、【図表1】の計算式が示され、所得代替率は61.2%と記されています。
また、【資料1】の4頁・7頁などには、所得代替率61.2%[比例:25.0%,基礎:36.2%]とも記されています。
※所得代替率…公的年金の給付水準を示す指標。
現役男子の平均手取り収入額に対する年金額の比率により表される。
所得代替率=(夫婦2人の基礎年金+夫の厚生年金)/現役男子の平均手取り収入額
2024年度:
61.2% =(13.4万円+ 9.2万円)÷37.0万円
[基礎:36.2%]
[比例:25.0%]
注: | 所得代替率に用いる年金額は、平成16年改正法附則第2条の規定に基づき前年度までの実質賃金上昇率を全て反映したもの。 |
(※筆者注) | 読みやすいように、文字の一部をカラー文字にするなど、【資料1】の1頁・4頁のオリジナル資料を一部加工しています。 |
【資料1】の数式を、そのまま検算すると、
所得代替率=(13.4万円+9.2万円)÷37.0万円=61.08%
で、 端数処理をしても61.1%であり、年金部会に提出された資料のデータ61.2%と一致しません。
わずか0.1ポイントの差異ですが、気になります。
なぜなのでしょうか?
万円単位ではなく、端数処理をしていない
円単位の数字で計算すると、ピッタリ合う
A1
たしかにそうですよね。検算してみると、たしかに合いませんよね。
筆者も正直、わかりませんでした。
そこで、関係者に伺ったところ、審議会資料の万円単位の金額ではなく、端数を処理していない円単位の金額が入力されているエクセルがあり、その数字で計算すると、合うとのことでした。
それで、そのエクセルの「ありか」(場所)を教えてもらい、その数字で計算してみると、たしかに合いました。
そのエクセルの場所ですが・・・。別にマル秘でも何でもなく、オープン公開されているのですが、なかなか保存場所がわかりにくくて、道順を聞いても、たどり着けない目的地に行くようで、苦労しましたが・・・。
なかなかたどり着くのは容易ではなかったのですが、次の手順で行くと、なんとかどり着けるのではないかと思います。若干、試行錯誤すると思いますが・・・。
(ア) 厚生労働省のホームページで、[財政検証] と入力し、検索。
(イ) [将来の公的年金の財政見通し(財政検証)]のURLをクリック。
(ウ) [令和6(2024)年財政検証の資料]のページを下のほうまで、スクロールし、[その他の資料]のところにあるフォルダ「財政検証詳細結果等1(Zipファイル)」をクリック。
(エ) ダウンロードしたフォルダ「財政検証詳細結果等」をダブルクリックすると、4つのフォルダが表示されるので、上から2つめにある「02所得代替率(令和6(2024)年度)」のフォルダをダブルクリック。
(オ) めざす「足下(令和6(2024)年度)の所得代替率について」というエクセルのファイルが出てきます(【図表3】参照)。
(カ) このエクセル資料は、パッと見たところ、金額は審議会資料と同一の数字になっていて、「〇〇.〇万円」と表示されています。
最初は、筆者も気がつかなかったのですが、関係者によると、このエクセルデータは、表示形式を加工していて、金額が表示されているセルにカーソルを合わせると、もともとの数値(入力データ)がわかるように設定されている、とのことです。
入力されているデータと表示形式を理解したところで、円単位の金額で整理したのが、【図表3】になります(一部、筆者が加工しています)。
所得代替率は(133,960円+92,372円)/369,915円=61.18%で、
端数処理をして61.2%になる!
【図表3】のデータを読み取りながら、箇条書き的に整理すると、【図表4】のようになります。
(1)①「現役男子の平均的な標準報酬額」が、455,000円なので、これに「可処分所得割合」0.813(後述のQ2&A2参照)を掛けると、②「現役男子の平均的な手取り収入額」が「455,000円✕0.813=369,915円」と求められます。
年金部会の資料では、この金額が万円単位で表示されて「37.0万円」と記載されていました。
(2)③「モデル年金のうち報酬比例年金」とは、老齢厚生年金のことで、これは、通常の算定式、すなわち、本来水準の年金額を求める計算式で求められます。
なお、「0.926」とは、令和5年度の本来水準の再評価率のこと、です。
455,000円×0.926×5.481/1000×480月=1,108,468.67円≒1,108,469円(年額)
で、これを月額に換算します。
1,108,469円÷12月=92,372.41円≒92,372円(月額)
年金部会の資料では、この金額が万円単位で表示されて「9.2万円」と記載されていました。
(3)③「モデル年金のうち基礎年金」とは、老齢基礎年金のことで、これは、夫婦2人分で「133,960円」とエクセルデータに入力されています。
なぜ、「133,960円」なのかは、後述のQ3&A3をご参照いただくとして、年金部会の資料では、この金額が万円単位で表示されて「13.4万円」と記載されていました。
(4)以上の経緯を踏まえると、④「所得代替率」は、「(夫婦2人分の基礎年金+夫の厚生年金)/現役男子の平均手取り収入額」で、求められますので
(133,960円+92,372円)÷369,915円✕100=61.18≒61.2%
と算出され、年金部会に提出されていた【資料1】の数値と一致しました。
(5)なお、報酬比例部分の「所得代替率」25.0%も、92,372円÷369,915円✕100=24.97≒25.0%で、年金部会に提出されていた【資料1】の数値と一致しました。
同様に、夫婦2人分の基礎年金の「所得代替率」36.2%も、133,960円÷369,915円✕100=36.21≒36.2%で、年金部会に提出されていた【資料1】の数値と一致しました。
以上のように計算していくと、所得代替率61.2%はピッタリと合うと思います。
「可処分所得割合」の「0.813」は、どうやって算出するのか?
Q2
【図表3】にある「可処分所得割合」って、なんですか? また、「0.813」は、どうやって算出するのですか? なるべく簡単に、わかりやすく説明してください。
A2
まず、「可処分所得」とは、一般的に、「個人の給与収入や賞与などの収入から、所得税や個人住民税、社会保険料などを差し引いた、残りの手取り収入の金額のこと」、つまり、自分の手元に残った自分の意思で使うことのできる(処分できる)お金のこと、と解されています。
財政検証における「可処分所得割合」とは、「5年に1度の財政検証のたびに、平均的な標準報酬額を算出した年度における家計調査(2人以上の世帯のうち勤労者世帯)の結果をもとに算出している、とのことです。
今回の場合、家計調査の2023年度の2人以上の世帯のうち勤労者世帯では、実収入が月額609,904円でした。
一方、「直接税(勤労所得税・個人住民税など)や社会保険料(公的年金保険料・健康保険料・介護保険料等)など」の「非消費支出」は、「113,793円」でした。
以上を踏まえると、可処分所得割合は、次のような算定式で求められます(【図表5】参照)
実収入:609,904円
非消費支出:113,793円
可処分所得=実収入-非消費支出
=609,904円-113,793円
=496,111円
可処分所得割合=可処分所得÷実収入
=496,111円÷609,904円
=0.8134≒ 0.813
なかなか難しいですが、これでおわかりいただけますでしょうか。
基礎年金の夫婦2人分は136,000円ではないのですか?
なぜ、所得代替率では13.4万円の金額を使うのですか?
Q3
令和6年度の老齢基礎年金の満額は816,000円です(新規裁定者の場合)。
月額に換算すると、68,000円です。夫婦2人だと68,000円✕2人=136,000円のはずですが、所得代替率を算定する年金部会の資料では、13.4万円の金額が用いられています(【図表1】参照)。
なぜ、136,000円の金額を用いず、13.4万円(133,960円:【図表3】【図表4】参照)の金額を用いているのでしょうか?
A3
これも、筆者はわかりませんでしたので、関係者にご教示いただきました。
年金部会の【資料1】(本稿の【図表1】に相当)に、「注:所得代替率に用いる年金額は、平成16年改正法附則第2条の規定に基づき前年度までの実質賃金上昇率を全て反映したもの。」との文言があります。
【図表3】で、お示ししたエクセルデータを読み解き、逆算すると、「前年度(2023年度)までの実質賃金上昇率」というのが、「0.985」と算出されます。
したがって、老齢基礎年金の68,000円に、「前年度(2023年度)までの実質賃金上昇率」0.985を掛け、その2人分(夫婦2人分)ということになると、
68,000円✕0.985✕2人分=133,960円
と計算される、ということです。
だから、所得代替率を求める計算式では、68,000円✕2人分=136,000円の金額が用いられるのではなく、68,000円✕0.985✕2人分=133,960円の数字が用いられている、ということのようです。
なかなか、ココまでは気がつかず、見過ごしている人も多いのではないでしょうか?
財政検証の結果が公表され、今後は、年金制度改正に向けての議論が本格化するものと思われます。
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なお、本稿を執筆するにあたり、厚生労働省の元・年金局長で、現・日本総合研究所特任研究員・高橋俊之様の『年金制度の理念と構造』(社会保険研究所)から、多大な示唆をいただきました。
この場を借りて、厚く御礼を申し上げます。