共済組合担当者のための
年金ガイド

「配偶者加給年金額」なども
「賃金」で改定するので、
2通りにはならない!
~令和6年度の「経過的寡婦加算「振替加算」を一覧表で掲載(3)~

令和6年度の新しい年金額を2月号から続けて、報告していますが、この間にも、共済組合の長期給付および短期給付にも、一定の動きがありました。

たとえば、短時間労働者の適用拡大の影響からか、地方職員共済組合(道府県の職員が加入)では、短期給付の掛金率が令和5年度の44.08/1000から令和6年度には47.98/1000に引き上げられました。
また、横浜市職員共済組合では、短期給付の掛金率が令和5年度・令和6年度と、2年連続で上昇しています(令和4年度34.86/1000⇒令和5年度44.86/1000⇒令和6年度49.80/1000)。
なお、公立学校共済組合では、短期組合員制度が導入された令和4年10月からすでに短期給付の掛金率を見直ししています(令和4年9月まで42.10/1000⇒令和4年10月から46.60/1000)。
短期給付の掛金率は、共済組合ごとに異なります。みなさんが加入する共済組合では、令和6年度に見直しはありましたでしょうか?
一方、長期給付のうち退職等年金給付については、令和5年12月に財政再計算をした結果、令和6年10月から基準利率に0.08%の加算率が加算されることが決定されました。加入していている組合員にとっては、朗報となるでしょう。

さて、それでは、先々月号(2024年2月)からの続きです。

(*) 【図表】の番号は、先々月号(2024年2月号)からの通し番号としている。

厚生年金保険法の配偶者加給年金額は、2通りになるのか?

厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)では、一定の要件を満たす配偶者がいると、配偶者加給年金額が加算されます。
この配偶者加給年金額については、新規裁定者と既裁定者で、金額が2通りになるのでしょうか?

条文を見てみましょう。厚生年金保険法第44条第2項です(【図表13】参照)。

【図表13】厚生年金保険法の配偶者加給年金額の金額を規定した条文

(加給年金額)

第44条 (第1項 略)

2 前項に規定する加給年金額は、同項に規定する配偶者については22万4700円に国民年金法第27条に規定する改定率であつて同法第27条の3及び第27条の5の規定の適用がないものとして改定したもの(以下この章において「改定率」という。)を乗じて得た額(その額に50円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、50円以上100円未満の端数が生じたときは、これを100円に切り上げるものとする。)とし、同項に規定する子については1人につき7万4900円に改定率を乗じて得た額(そのうち2人までについては、それぞれ22万4700円に改定率を乗じて得た額とし、それらの額に50円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、50円以上100円未満の端数が生じたときは、これを100円に切り上げるものとする。)とする。

(*) 緑文字・赤文字・点線は、筆者による。

厚生年金保険法第44条第2項に、「国民年金法第27条に規定する改定率であつて同法第27条の3及び第27条の5の規定の適用がないものとして改定したもの」という規定がありますので、新規裁定者に適用する「賃金スライド」(「名目手取り賃金変動率」=「賃金」)をもって改定する、ということが読み取れます。
したがって、2通りの金額は生じないということになります。

厚生年金保険法の配偶者加給年金額の特別加算はどうか?

老齢厚生年金の受給権者が68歳以上であっても、配偶者に対する加給年金額および子に対する加給年金額は、新規裁定者に対する改定率(「賃金スライド」)を適用するので、1つの金額しか存在しないということがわかりました。

では、昭和9年4月2日以後に生まれた受給権者には、受給権者の生年月日に応じて、配偶者加給年金額に特別加算が加算されますが、この特別加算はどうなのでしょうか?

条文をみてみましょう。
厚生年金保険法の昭和60年改正法附則第60条第2項の表の上欄・下欄に規定されています。
「昭和18年4月2日以後に生まれた者」は、「16万5800円に改定率(国民年金法第27条の3及び第27条の5の規定の適用がないものとして改定した改定率とする。)を乗じて得た額」と規定されていますので、受給権者が68歳以上の既裁定者であっても、「賃金スライド」で改定されることがわかります。

念のため、先ほどお示しした逐条解説で、該当箇所のところを紐解いてみましょう(【図表14】参照)。なお、厚生労働省のホームページに掲載されているのは、国民年金法の逐条解説ですので、この該当部分は厚生労働省のホームページにはありません。
さて、何と書いてあるでしょうか?

【図表14】『7訂 国民年金・厚生年金保険改正法の逐条解説』
-厚生年金保険法の配偶者加給年金額に関する解説-

平成16年改正において、特別加算の額は生年月日に応じて3万3200円から16万5800円とされ、額の改定については基礎年金の新規裁定者に対する改定率を乗じて得た額としている。

なお、配偶者に対する加給年金は、配偶者がいることで生計費が多くかかることに着目して支給されるものであり、受給権者本人が68歳以上であるかどうかによって、加算額が異なることは妥当でないと考えられることから、受給権者が68歳以降になっても、新既裁定者の改定率と同率で改定を行う(既裁定者物価スライドの対象としない)こととしている。

【出典】 『7訂 国民年金・厚生年金保険改正法の逐条解説』521頁(中央法規平成21年2月20日刊)
(*) 読みやすいように、筆者が一部、行換え・読点(、)を入れている。

それでは、条文を踏まえ、厚生年金保険の配偶者加給年金額を算出してみましょう(【図表15】参照)。
国民年金法の新規裁定者の改定率は、先々月号(2024年2月号)の【図表6】【国民年金法の改定率の求め方Ⅱ】でお示ししたように、「1.045」です。

【図表15】厚生年金保険の配偶者加給年金額の算出方法とその金額
-令和6年度の金額-

<昭和18年4月2日以後生まれの受給権者の場合>

・配偶者の加給年金額:
224,700円(法定額)×1.045(改定率)234,811.50円234,800円(100円単位)

・特別加算額:
165,800円(法定額)×1.045(改定率)173,261円173,300円(100円単位)

新規か既裁か、どちらを用いるのか、
即わかる判定方法はあるのか?

それでは、「中高齢寡婦加算」と「経過的寡婦加算」について、新規裁定者の年金額を用いるのか、あるいは既裁定者の年金額を用いるのか、どのように考えて算出していけばいいのでしょうか?
また、改定率は、「賃金」(新規裁定者)「物価」(既裁定者)か、どちらを用いるのか、すぐわかる判定方法はあるのでしょうか?
その都度、法律の条文を読んで、判断していたら、時間がかかってたいへんです。

筆者の理解の仕方としては、「中高齢寡婦加算」は、「65歳前の人に加算されるので、新規裁定者の遺族基礎年金の4分の3と理解するのがよろしいかと存じます。
したがって、(新規裁定者の遺族基礎年金の4分の3)=「816,000円×3/4=612,000円(100円単位)」となります。

一方、「経過的寡婦加算」(厚生年金保険法の昭和60年改正法附則第73条)については、どのように考えて、判定すればいいでしょうか?
経過的寡婦加算が加算される対象者というのは、昭和31年4月1日以前生まれの女性です。つまり、昭和31年4月1日以前生まれの人にしか、経過的寡婦加算は支給されません。ということは、経過的寡婦加算が支給される対象者の昭和31年4月1日以前生まれの人は、すべて既裁定者ということになります。
したがって、既裁定者の遺族基礎年金額(813,700円)の4分の3(610,300円)と既裁定者の老齢基礎年金(813,700円)を基礎として、金額を算出します。
すなわち、既裁定者の遺族基礎年金の4分の3(中高齢寡婦加算:610,300円)から、既裁定者の老齢基礎年金の金額(813,700円)に附則別表第9に掲げられた妻の生年月日に応じた数(たとえば、480分の348)を乗じて得た額を控除して、経過的寡婦加算の額を求めるということになります。

言葉で説明するよりも数式でみていただいたほうがわかりやすいでしょう。
「昭和30年4月2日から昭和31年4月1日までの間に生まれた者」の経過的寡婦加算の額は、次の計算式で求められます。

610,300円-813,700円×348月/480月(附則別表9に掲げる数)
=610,300円-589,932.50円
610,300円-589,933円=20,367円

なお、経過的寡婦加算額の一覧表については、【図表16】(ここをクリックしてください)に掲載しましたので、そちらをご覧ください。

振替加算の加算はどうか?

最後になりますが、老齢基礎年金に加算される振替加算は、どう考えたらいいのでしょうか?
国民年金法の昭和60年改正法附則第14条の規定を読むと、次のように規定されています(【図表17】参照-本稿に関する部分のみ抜粋-)。

【図表17】振替加算の規定:国民年金法昭和60年改正法附則第14条(抜粋)

22万4700円に同法第27条に規定する改定率(以下「改定率」という。)を乗じて得た額(その額に50円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、50円以上100円未満の端数が生じたときは、これを100円に切り上げるものとする。)にその者の生年月日に応じて政令で定める率を乗じて得た額を加算した額とする。

振替加算の加算額は、224,700円に改定率を乗じて得た額に、老齢基礎年金の受給権者の生年月日に応じて定められている率を乗じて得た額、と規定されています。
つまり、数式で表すと、

振替加算の加算額
=224,700円×改定率×生年月日に応じた率(1.000~0.067)

となります。
国民年金法では、ただ単に、「同法(国民年金法)第27条に規定する改定率」としか規定されていません。
「子の加算」に関する規定のように、既裁定者の規定(改定率、すなわち「物価スライド」=「物価」)は適用しないという、つくりにはなっていません。

ということは、もう一度先月号(2024年3月号)の【図表11】を見ていただきたいのですが、新規裁定者既裁定者で、生まれた生年度により、それぞれの改定率が適用される、ということになります。
つまり、先月号(2024年3月号)の【図表1】【令和6年度の基礎年金の年金額】で見ていただいたように、基礎年金の満額を求めたときと同じ算出方法により、振替加算の基礎となる金額(「224,700円✕改定率」)を求める、ということになります。

【図表18】振替加算の基礎となる金額の求め方

■既裁定者(69歳以上の人):
「昭和31年(1956年)4月1日以前生まれの人」

224,700円(法定額)×1.042(改定率)234,137.40円234,100円

■既裁定者(68歳の人)
「昭和31年(1956年)4月2日から昭和32年(1957年)4月1日の間に生まれた人」

224,700円(法定額)×1.045(改定率)234,811.50円234,800円

○新規裁定者(67歳以下の人):
「昭和32年(1957年)4月2日以後生まれの人」

224,700円(法定額)×1.045(改定率)=234,811.50円234,800円

この金額に、受給権者のそれぞれの生年月日に応じて、政令(昭和61年政令第54号:国民年金法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置に関する政令第24条)で定められた率を乗じれば、振替加算の額が算出できるということになります。

69歳以上の、たとえば、「昭和30年4月2日~昭和31年4月1日」生まれの、一定の要件を満たす老齢基礎年金の受給権者であれば、既裁定者ですので、振替加算の額は「234,100円×0.227≒53,141円」(円未満50銭以上切上げ)が、加算されて支給されるということになります。
「0.227」は、受給権者の生年月日に応じて、政令で定められた率です。

また、68歳の、「昭和31年4月2日~昭和32年4月1日」生まれの、一定の要件を満たす老齢基礎年金の受給権者であれば、既裁定者ですが、振替加算の基礎となる金額は、【図表18】で算出したように、「234,800円」となりますので、振替加算の金額は、「234,800円×0.200=46,960円」になります。
「0.200」は、受給権者の生年月日に応じて、政令で定められた率です。

67歳以下の、たとえば、「昭和32年4月2日~昭和33年4月1日」生まれの、一定の要件を満たす老齢基礎年金の受給権者であれば、新規裁定者ですので、「234,800円×0.173≒40,620円」(円未満50銭未満切り捨て)になります。
「0.173」は、受給権者の生年月日に応じて、政令で定められた率です。

基礎年金も振替加算も、令和6年度については、「69歳以上」「68歳」「67歳以下」と3つの区分で表示・理解しておくことが、令和7年度以降の年金額の改定に、あまりまごつくことなく、対応できる秘訣ではないかと、筆者は考えています。

なお、最後に、振替加算の加算額を、【図表19】(ここをクリックしてください)として掲載しておきますので、ご参照ください。