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- 【第89回】2023年11月号
郵便局の職員は、民営化されたのに、
なぜ、共済組合の組合員なのか?
年金相談をしている、ある社会保険労務士の先生から、「郵便局の職員は、民営化されたのに、なぜ、共済組合の組合員なのですか?」という質問をいただきました。
たしかにそうですよね。郵政民営化が実施されたのは、小泉内閣のときの平成19年(2007年)10月1日でした。首相官邸のホームページで確認すると、竹中平蔵氏が総務大臣で郵政民営化担当大臣でした。
民営化されて、家の近くの郵便局にゆうパックを差し出しに行ったり、ゆうちょ銀行のキャッシュディスペンサーを利用するときも、ここにいるテキパキと働いている職員が、国家公務員とは思えません。
なのに、なぜ国家公務員共済組合の組合員のままなのでしょうか?
日本郵政共済組合は国家公務員共済組合法の本則ではなく、
附則で設置が規定!
郵政省はもうありません(2001年の中央省庁の再編統合による)。
郵政業務は総務省の所管になっています。
では、郵便局の職員は、総務省共済組合の組合員になっているのでしょうか?
いいえ、違います。総務省共済組合の組合員になっているのではありません。
では、どの共済組合の組合員になっているのでしょうか?
20ある国家公務員共済組合(連合会を含む)のひとつ、日本郵政共済組合の組合員になっています。
[令和3年度 国家公務員共済組合事業統計年報](財務省主計局編)を紐解くと、「日本郵政公社が『郵政民営化法』(平成17年法律第97号)により民営化されたことに伴い、日本郵政公社共済組合は平成19年10月1日から日本郵政共済組合となった」と記されています。
ただし、国家公務員共済組合法(昭和33年法律第128号)第3条に規定された「各省各庁ごとに、その所属の職員をもつて組織する国家公務員共済組合」という建て付けではなく、附則の規定による設置となっています。
すなわち、国家公務員共済組合法附則第20条の2第1項に基づく、「当分の間、郵政会社等の役員及び職員をもつて組織する共済組合を設ける」との規定により、日本郵政共済組合が設置されている、という位置づけになっています。
「郵政会社等」とは、「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命保険」など
では、「郵政会社等役職員」をもって組織する日本郵政共済組合の、「郵政会社等」とは、どんな会社を指しているのでしょうか?
国家公務員共済組合法附則第20条の2第2項で、次のように掲げられています。
① 日本郵政株式会社
② 日本郵便株式会社
③ 郵便貯金銀行(ゆうちょ銀行)
④ 郵便保険会社(かんぽ生命保険)
⑤ 独立行政法人郵便貯金簡易生命保険管理・郵便局ネットワーク支援機構
また、同法同条第4項で、「郵政会社等役職員」は国家公務員共済組合法上の「職員」(同法第2条第1項第1号、原則として「常時勤務に服することを要する国家公務員」をいう)とみなす、と規定しています。
あわせて、「郵政会社等の業務」は、「公務」とみなす、とも規定されています。
つまるところ、郵便局の職員は国家公務員ではないけれども、国家公務員とみなして、国家公務員共済組合法を適用する、また、郵便局の業務は公務ではないけれども、公務とみなして、国家公務員共済組合法を適用する、と解されます。
郵便局の職員は国家公務員なのか?
ところで、カタイ話になって恐縮ですが、国家公務員の定義とは、どうなっているのでしょうか?
『逐条国家公務員法 第2次全訂版』(学陽書房 2023年6月刊)を読むと、「明文の規定はなく、人事院の判断に委ねている」と記されています。
なかなかどうも簡単ではないようです。
国家公務員であることを判断する基準として、「①国の事務に従事していること ②国の任命権者から任命されていること ③原則として、国から給与を支給されること」の3つの要件が掲げられています。
この基準をもって、人事院でもない筆者が、「郵便局の職員が、国家公務員に該当するかどうか」を判断することは適当ではないので、人事院の『令和4年度 年次報告書』を調べてみました。すると、次のように記されている箇所を発見しました(目次 8頁)。
一般職国家公務員は、郵政民営化、国立大学法人化、非特定独立行政法人化(平成27年4月1日以降は中期目標管理法人及び国立研究開発法人)等により非公務員化が進み、昭和40年代以降80万人を超える水準で推移していたその数は、現在(令和5年度末予算定員)、常勤職員で約29.2万人にまで減少している(略)。これに特別職約29.8万人を加えた国家公務員全体では約59.0万人である。
※ | 文字を色文字・太字化したのは筆者による。 |
要するに、郵便局の職員は、郵政民営化されて、「非公務員化」された、すなわち、公務員ではなくなった、ということのようです。
次の「一般職国家公務員数の推移」のグラフをみると、より明白でしょう。
【出典】 | 人事院『令和4年度 年次報告書』(目次 9頁)より |
「一般職国家公務員数の推移」のグラフをみると、平成16年(2004年)4月に、国立大学が国立大学法人等へ移行したことで、約12.6万人の国家公務員が減少し、平成19年(2007年)10月の「郵政公社の民営化」により、約25.4万人の国家公務員が減少したことが、みてとれます。
ということは、郵便局の職員が国家公務員ではない、と理解してよろしいのではないでしょうか。
しかしながら、すでに述べてきたように、国家公務員共済組合法附則の規定で、日本郵政共済組合が設置され、国家公務員とみなされて、国家公務員共済組合法の適用を受けている、と認識されます。
郵便局の職員は雇用保険に加入しているが・・・?
冒頭の社会保険労務士の先生からは、郵便局の職員は、郵政民営化の平成19年(2007年)10月1日以降は、雇用保険にも加入するようになったが・・・、という質問もいただいていました。
これは、「一般職国家公務員」から非公務員化することで、雇用保険法第6条第6号の「適用除外」に該当しなくなったから、雇用保険法が適用されるようになり、雇用保険の被保険者になるようになった、と考えるとスッキリするのではないでしょうか。
該当する条文を下に掲げましたので、ご参照ください。
雇用保険法(昭和49年法律第116号)
(適用除外)
第6条 次に掲げる者については、この法律は、適用しない。
六 国、都道府県、市町村その他これらに準ずるものの事業に雇用される者のうち、離職した場合に、他の法令、条例、規則等に基づいて支給を受けるべき諸給与の内容が、求職者給付及び就職促進給付の内容を超えると認められる者であつて、厚生労働省令で定めるもの
一般職国家公務員(原則として、常時勤務に服することを要する者)であって、
退職手当が支給される者は、雇用保険の適用除外
少し、話は横道にそれますが・・・。
国家公務員や地方公務員については、民間企業に雇用される労働者と違って、景気の変動等による失業というリスクにさらされる事態が想定されていません。
したがって、原則として、常時勤務に服することを要する一般職国家公務員や地方公務員は、雇用保険の適用除外とされています(雇用保険法第6条第6号)。
雇用保険法第6条第6号を読み、雇用保険法施行規則(昭和50年労働省令第3号)第4条第1号まで目を通すと、雇用保険の適用除外となる「法第6条第6号の厚生労働省令で定める者」というのは、「常時勤務に服することを要する国家公務員で、国家公務員退職手当法(昭和28年法律第182号)が適用される者」ということがわかります。
したがって、退職手当(民間企業でいうところの退職金)を一度受給した定年退職者で、再任用された公務員は、常時勤務に服することを要する者であっても、国家公務員退職手当法(自治体の場合は、『職員の退職手当に関する条例』など)の適用対象とはならないので、雇用保険法第6条第6号の適用除外に該当せず、雇用保険が適用されます。
繰り返しになりますが、短時間勤務の再任用職員はもとより、常時勤務に服することを要する公務員であっても、再任用職員等は、国家公務員退職手当法(自治体の場合は、『職員の退職手当に関する条例』など)の対象外なので、すなわち退職手当(退職金)が支給されないので、雇用保険法第6条第6号の適用除外に該当せず、雇用保険が適用され、雇用保険料を納めることになります。
なお、国家公務員退職手当法第10条には、「失業者の退職手当」という規定があり(自治体の場合は、たとえば東京都の場合、『職員の退職手当に関する条例』の中に、「失業者の退職手当」の規定がある)、これはこれでひじょうに興味深い内容が規定されているのですが、脱線のしすぎになりますので、話を本筋に戻しましょう。
国立大学法人等の教職員も雇用保険に加入!
先ほどお示しをした「一般職国家公務員数の推移」のグラフを、いま一度ご覧ください。
平成16年(2004年)4月に、国立大学が国立大学法人等へ移行したことで、約12.6万人の国家公務員が減少した、とありますが、実は、国立大学の教授の先生方も雇用保険に加入するようになりました。
平成15年(2003年)10月6日付けで、厚生労働省労働基準局・労働保険徴収課長が、都道府県総務部(労働保険徴収部)長宛に発出した基徴発第1006001号『国立大学法人等の労働保険の適用について』には、「国立大学法人等はその職員の身分が非国家公務員の法人であり」として、次のように記されています。
国立大学法人等の労働保険の適用について
国立大学法人法(平成15年法第112号)が平成15年10月1日から施行され、平成16年4月1日に国立大学法人及び大学共同利用機関法人(以下「国立大学法人等」という。)が成立することとなるが、国立大学法人等に対する労働保険の適用及びその事務処理については下記のとおりとなるので、了知されたい。
記
1 国立大学法人法の概要
(筆者、略す)
2 国立大学法人等に対する労働保険の適用について
国立大学法人等はその職員の身分が非国家公務員の法人であり、一元適用事業で、労災保険と雇用保険の両保険に係る保険関係が成立する事業となること。
3 国立大学法人等に係る事務処理について
(筆者、略す)
※ | 文字を太字化したのは筆者による。 |
国立大学法人等の教職員も共済組合の組合員!
国家公務員共済組合法第124条の3をみると、「(略)国立大学法人等に常時勤務することを要する者(略)は、職員とみなして、この法律の規定を適用する」と規定されていますので、国立大学法人等の職員は、原則として、国家公務員共済組合の組合員になります。
文部科学省共済組合のホームページで、「組合員の種類」のところをみると、次のように記されています。
1 長期組合員
文部科学省共済組合では、文部科学省,スポーツ庁,文化庁,国立大学法人,大学共同利用機関法人,文部科学省の所管する独立行政法人及び共済組合に常時勤務する職員が該当します。
※ | 文字を色文字・太字化したのは筆者による。 |
国家公務員の公務員数は約59万人、
国家公務員共済組合の組合員数は約108万人、
約49万人のスキマは・・・?
すでにみてきたように、国家公務員の一般職は約29.2万人、特別職は約29.8万人(うち、防衛省職員約26.8万人)で、国家公務員全体では約59.0万人となっています(令和5年度末予算定員)。
ところが、国家公務員共済組合の組合員数は約108万人となっています(令和3年度末、長期組合員数)。
このスキマの約49万人は、どこから生じているのでしょうか?
筆者が思うに、国家公務員ではないけれども国家公務員共済組合の組合員になっているのは、日本郵政共済組合の組合員数で約22.8万人、文部科学省共済組合の組合員数で約17.5万人(約17.7万人-文科省等の国家公務員約0.2万人)、厚生労働省第二共済組合(国立ハンセン病療養所・独立行政法人国立病院機構等に勤務する職員をもって組織)の組合員数で約7.5万人で、合計でおおよそ約47.8万人になるので、これに国家公務員共済組合連合会の組合員数約1.2万人を重ね合わせると、このスキマが埋まるのかな、と推測しています。
(*) | 国家公務員の公務員数については、人事院『令和4年度 年次報告書』による。 国家公務員共済組合の組合員数については、財務省主計局編『令和3年度 国家公務員共済組合事業統計年報』による。 |
今回は国家公務員共済組合について記しましたが、機会があれば、○○県住宅供給公社・□□県国民健康保険団体連合会・公立大学法人△△大学が加入している地方職員共済組合団体共済部についても記したいと考えています。
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【参考文献】 | ○『公務員の退職手当法詳解 第6次改訂版3刷』 退職手当制度研究会 編著(学陽書房、平成29年10月刊) |
○『公務員の失業者退職手当制度の手引き 第1次改訂版』 退職手当制度研究会 編著(学陽書房、平成29年12月刊) | |
○『国家公務員 任用実務のてびき 第5次改訂版』 一般財団法人 日本人事行政研究所 編(一般財団法人 日本人事行政研究所、平成25年11月刊) | |
○『よくわかる共済制度〈医療・年金〉ガイドブック 平成18年度版』関根 繁雄著(社団法人 共済組合連盟) | |
○『よくわかる国家公務員の医療・年金ガイドブック 令和5年度版』工藤 哲史著(一般社団法人 共済組合連盟) | |
○金融庁ホームページ 『ゆうちょ銀行・かんぽ生命保険スタート-郵政民営化について-』 |