共済組合担当者のための年金ガイド

「子の加算」拡充・「配偶者加給」は縮小へ
-老基にも「子の加算」新設・老厚は10年加入で「子の加算」-

社会保障審議会・年金部会で、年金制度改正の方向性を議論する審議が続いています。
審議会の様子をウォッチングしている筆者は、2024年12月3日に開催された第22回社会保障審議会・年金部会で、次の2点がたいへん印象に残りました。

○「子の加算」について・・・

老齢基礎年金にも一定期間以上の加入要件を満たした場合には、加入期間に応じて一定額を加算する、という改正内容は想定外。

○「配偶者加給年金」は廃止かと思ったら・・・

これまでの審議会議論の流れを踏まえると、廃止が提案されるのかと思っていたら、縮小にとどめるということで、事前の想定とは、だいぶ異なる印象。

今月はその改正事項の方向性について、お伝えしていきたいと思います。
なお、年金部会での議論はまだ続いていますし、年内に報告書がまとまる予定(前回は、2019年12月27日に「議論の整理」として、とりまとめられている)ですが、その後、国会での法案審議があります。
あくまでも、現時点(2024年12月8日時点)における、「見直しの方向性」について、審議会をウォッチングしている筆者が、年金部会に提出された資料と質疑を通じて得られた情報の範囲内という限定付きで、いくつかの項目にポイントを絞って、お伝えさせていただきます。

「子の加算」は、厚生年金の老齢・障がい・遺族のすべてに付ける!
老基には「子の加算」を新設!

年金部会に提出された資料をまず見ていただきましょう。
【図表1】【年金制度における子に係る加算について(全体像)】です。
「子の加算」は、厚生年金の老齢・障がい・遺族のすべてに付ける制度設計になっています(厚生年金では、「子の加算」も『加給年金』という位置づけで加算される)。
また、老齢基礎年金においても、新たに「子の加算」を新設する制度設計になっています。

【図表1】【年金制度における子に係る加算について(全体像)】

年金局の年金課長の説明によれば、赤い点線の枠で囲った箇所の「子の加算」について、今回新設を予定しているとのことです。
改正のポイントを箇条書きでまとめると、【図表2】【「子の加算」改正のポイント】のようになるかと思います。

【図表2】 「子の加算」改正のポイント

① 障がい厚生年金・遺族厚生年金に「子の加算」を設ける。
(【図表1】で『≪子≫加給年金』と表記。以下、同様。)

② 老齢厚生年金の「子の加算」については、加算する要件を厚生年金の加入期間20年から10年に短縮する。
配偶者加給年金額については、見直し案が出ていないので、20年のまま、と思われる。

③ 「子の加算」の第3子の加算額については、第1子・第2子と同額にする。

④ 「子の加算」の加算額については、234,800円(令和6年度の金額)を増額する。ただし、引上額は示されていない。

⑤ 老齢基礎年金に、新たに「子の加算」を新設する(詳細は後述)。

⑥ 「子の加算」が厚生年金にも基礎年金にも、いずれにも加算される場合は、両方から支給されるのではなく、厚生年金から支給する(併給調整を行う)。

■老齢基礎年金にも「子の加算」を新設!
「子の加算」国内居住要件も

【図表2】【「子の加算」改正のポイント】⑤で示したように、老齢基礎年金にも「子の加算」が新設されます。
晩婚化が進み、年をとってから子が生まれても、公的年金制度で、子育てを支援する、という趣旨の説明がされています。

対象となる子の人数は、約2.2万人と推計されています(【図表1】参照)。
受給権者たる父または母が、65歳の時点で、生計維持関係のある18歳の年度末までの子(国内居住要件も設けられる)が対象となるので、そんなに多くはいないのかもしれません。

なお、「子の加算」の「子」の定義については、「子が障がい等級1級または2級の障がい状態にある場合には、20歳未満」など、従前と変わりありませんので、以後は省略します。

また、権丈善一(けんじょう・よしかず)委員(慶應義塾大学商学部教授)の発言を踏まえると、繰下げ受給を行う場合、その繰下げ待機期間中は、「子の加算」は支給されないということで、この点も、従来のしくみと変わりはないようです(権丈委員の発言の趣旨は、繰下げ受給のインセンティブを阻害するような制度改正は批判的なように筆者には認識されました)。

25年(300月)の保険料納付済・保険料免除期間で、
満額の「子の加算」(234,800円:令和6年度の金額)を支給!

年金部会で、毎回鋭い意見を発している是枝俊悟(これえだ・しゅんご)委員(株式会社大和総研金融調査部主任研究員)は、老齢基礎年金に「子の加算」を創設することに反対、との意見を述べていましたので、最終的に事務局案の改正の方向性で、年内の部会の報告書から来年の通常国会に提出する法案まで、スンナリとまとまるのかどうかはなんとも言えませんが、老齢基礎年金に新設される予定の「子の加算」の内容については、概略以下のとおりです。

老齢基礎年金は10年の受給資格要件を満たせば、原則として65歳から老齢基礎年金を受給できるようになりますが、「子の加算」については、保険料納付済期間と保険料免除期間の合計年数(月数)が25年(300月)ないと、満額の「子の加算」(令和6年度の金額で234,800円)は受給できない制度設計になっています。
年金部会の提出資料(2024年12月3日の年金部会に提出された【資料1】7頁)では、「遺族基礎年金において、受給権の取得には長期要件として死亡した者に25年間の受給資格期間を求めている。一方で、老齢基礎年金は受給資格期間10年間で受給権が発生するため、定額の給付である子に係る加算について、遺族基礎年金の受給権者とのバランスを失することの無いような仕組みを検討してはどうか。」と説明されています。
そして、300月に満たない受給権者の場合は、次の算定式により、「子の加算」の加算額を求めるとしています。

【図表3】 「子の加算」の加算額 算定式

「子の加算」の加算額=満額(234,800)円 ✕ (保険料納付済期間+保険料免除期間)÷300月

国民年金法第27条により将来の年金額につながる期間とされている保険料納付済期間と免除期間について、それぞれを1月として算出することとする。

保険料免除期間のある場合の「子の加算」の算定式

たとえば、「保険料免除期間」(たとえば、全額申請免除)が4年あったとすると、これは「子の加算」の算定のおいては、48月✕1/2=24月ではなく、48月として算入されます。
老齢基礎年金の受給資格期間の10年を判定するのと同じ取扱い・同じ数え方になります。
したがって、あくまでもフィクションの事例ですが、6年間の保険料納付済期間(仮に、国民年金の第3号被保険者期間で、その後、離婚して3号分割の期間)があり、4年間の全額申請免除の期間があれば、老齢基礎年金の受給資格要件を満たしますし、老齢基礎年金の「子の加算」の要件も満たすということになります(この10年間以外の30年間の期間については、学生納付特例制度・保険料納付猶予制度の承認を受けた期間、あとは未納の期間と考えてください)

この「子の加算」対象者の受給できる年金額(令和6年度の年金額で試算)を試算すると、以下のようになると考えます。

 

老齢基礎年金=816,000円✕(72月+24月)/480月=163,200円

「子の加算」=234,800円✕(72月+48月)/300月= 93,920円

の合計257,120円が受給できるようになる、と認識しています。

<筆者注>【図表3】の 「」にあるように、「国民年金法第27条により将来の年金額につながる期間とされている保険料納付済期間と免除期間について、それぞれを1月として算出する」という注記「」を踏まえると、学生納付特例制度の承認を受けた期間および保険料納付猶予制度の承認を受けた期間については、保険料免除期間には算入されないと考えています。

「子の加算」は父親にも母親にも加算、
現行の障がい基礎年金と同様の取扱いに
-併給の調整はなし-

たとえば、夫も妻も障がい基礎年金2級を受給していて、高校生以下の子ども(18歳の年度末までの子)が1人いる場合、現行の国民年金法では、「子の加算」については、障がい基礎年金2級を受給しているにも、障がい基礎年金2級を受給しているにも、両方に加算されます。
調整規定がないので、そうなっています。

ある専門家によれば、「夫婦ともに障がい者の場合には、それぞれの受給権者としては、子1人に対して1人分の子の加算しか行われていません。同じ受給権者に子2人分の加算が行われているわけではないので、過剰給付には当たらないという解釈だろうと思います」と述べています。

いずれにしても、調整する規定がない以上、夫婦ともに、それぞれ子の加算額が加算された障がい基礎年金が支給されるということになっています。

老齢基礎年金の「子の加算」も、
父親にも母親にも加算

年金部会では、障がい年金の第一人者の学者である百瀬 優(ももせ・ゆう)委員(流通経済大学経済学部教授)が、養子を例にして、「子の加算」が父親にも母親にも加算されるということを念頭に置いて、意見を述べられていました。
卑近な例に落とし込んで、筆者なりに説明しましょう。
今回、新たに創設される老齢基礎年金の「子の加算」というのが、障がい基礎年金の「子の加算」と同じ制度設計で、「子の加算」が設けられるとすると、高校生までの子(18歳の年度末までの子)が1人いる場合、「子の加算」については、国年1号の保険料納付済期間が10年間ある夫(68歳)にも、国年1号の保険料納付済期間が10年間ある妻(65歳)にも、234,800円✕120月/300月=93,920円が、の両方に加算される、ということになります。
このことをどう考えるのか、という問題提起をされたのが、年金部会における百瀬委員の真意ではなかったか、と推察しています。
審議会の開催前には、委員のところに厚生労働省から事前のレクチャーが来ますが(筆者が社会保障審議会の部会委員をしていたときの経験知ですが)、それにしても、百瀬委員はよくここまで気づかれるなぁ、とたいへん勉強になりました。

老齢厚生年金は10年の加入で、
定額234,800円の「子の加算」が付く!

厚生年金における「子の加算」については、今回の制度改正の方向性(以下、「改正案」という)では、加入期間が20年以上ではなく、加入期間が10年以上で、定額の234,800円(令和6年度の金額)が加算されるようになります(【図表1】参照)。
対象となる子の人数については、【図表1】によれば、約3.6万人と推計されています。

老齢基礎年金と同じ制度設計で、老齢厚生年金に、「子の加算」が設けられたとすると、高校生までの子(18歳の年度末までの子)が1人いる場合、「子の加算」については、厚生年金保険の加入期間(国年2号)が10年以上ある夫(68歳)にも、厚生年金保険の加入期間(国年2号)が10年以上ある妻(65歳)にも、定額の234,800円(令和6年度の金額)<すでに述べたように、今後、この金額は引き上げられる予定>が、の両方に加算される、ということになります。

「子の加算」が厚生年金にも基礎年金にも加算される場合は、
厚生年金が優先

【図表2】 【「子の加算」改正のポイント】⑥で述べたように、「子の加算」が厚生年金にも基礎年金にも加算される場合は、厚生年金に優先支給されます(併給調整)。
たとえば、「子の加算」が老齢厚生年金にも、老齢基礎年金にも加算される場合、老齢厚生年金から優先支給する(併給調整)という改正案になっています。
障がい年金に「子の加算」が加算される場合も同様で、たとえば、障がい厚生年金(障がい等級2級)<改正案により新設>にも、障がい基礎年金(障がい等級2級)にも加算される場合、「子の加算」は改正案によれば、新設される障がい厚生年金(障がい等級2級)から優先支給する(併給調整)ということになっています。

また、現行法では、障がい基礎年金の受給権者が65歳到達により、老齢厚生年金(いわゆる老齢満了=厚年20年以上加入)の受給権が発生した場合、この両者(障がい基礎年金と老齢厚生年金)は併給されますが、障がい基礎年金に「子の加算」、老齢厚生年金に『子の加給年金額』が加算される場合には、障がい基礎年金の「子の加算」が優先で、老齢厚生年金の『子の加給年金額』は支給停止になる旨の規定があります(厚生年金保険法第44条第1項ただし書)。
この規定が改正案ではどうなるのかについては、新しい制度設計案の考え方である厚生年金を優先支給するという改正案の趣旨からすると、老齢厚生年金から支給するように変更するようにも思われますが、審議会では、ストレートにこの箇所についての質疑はなかったように記憶していますので、現段階ではわかりません。

また、遺族厚生年金にも「子の加算」が新設されます(【図表1】参照)が、12月10日開催される年金部会で、「(3)遺族年金制度について②」が議題になっていますので、それと合わせて、今後、機会を捉えて、ご報告したいと思います(執筆が12月8日時点のため)。

「配偶者加給年金額」は廃止ではなく、縮小!

「配偶者加給年金額」について、これまで審議会で述べられていた各委員の意見としては、廃止の方向の意見(それがいいかどうかはともかくとして)が強かったように筆者には感じられていたのですが、当日、事務局から示された見直しの方向性というのは、「現在受給している者への支給額は維持した上で、将来新たに受給権を得る者に限って支給額について見直すことを検討してはどうか。」(当日の部会【資料1】9頁)という内容でした。
「支給額を見直す」という方向性を示しただけで、縮小に向けた具体的なスケジュールは示されなかったということで、年金部会では各委員からの強い口調の批判もあったと筆者は受け止めていますが、現在の政治状況を考えると、やはり、そう簡単に廃止ということは、事務局としては言及できないということでしょうか。
当日審議会を所用のため欠席された島村暁代(しまむら・あきよ)委員(立教大学法学部教授:『プレップ社会保障法』弘文堂などの著書がある)は、専門分野の学者としてのお立場からの発言と思われますが、事前に提出された意見書の中で、「配偶者に対する加給年金」について、「(前略)上記の通り、子にかかる加算は積極的に推進する立場であるが、他方で配偶者に対する加給年金については廃止を含めた見直しが必要と考えている。」 と述べられていたのも、印象に残っています。

さて、この原稿が、掲載される頃は、今年もあと10日あまりとなっていることと思います。
来年は年金制度改正が予定されていますので、正確な情報を伝えていきたいと考えています。
本年も1年間たいへんお世話になりました。
どうぞよいお年をお迎えください。

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冒頭で記したことの繰り返しになりますが、本稿で記した内容については、2024年12月8日時点の情報をもとにしており、最終的には、国会に提出された法案の条文および詳細な政令などを待たないと確定的なことは言えませんので、その点ご了解ください。
なお、本稿を執筆するにあたり、厚生労働省の元・年金局長で、現・日本総合研究所特任研究員・高橋俊之氏の書籍『年金制度の理念と構造』(社会保険研究所 2024年4月刊)および日本総合研究所のホームページに連載している『年金制度改正の議論を読み解く』を、たいへん参考にさせていただきました。
この場を借りて、厚く御礼を申し上げます。