共済組合担当者のための年金ガイド
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- 【第101
- 回】2024年11月号
臨時的任用職員が障がい年金の請求をするのは、
地方公務員共済組合か、日本年金機構か?
地方公務員共済組合の組合員だった人から、障がい年金の請求について、相談を受ける社会保険労務士の先生が多くなったような感じがします。
相談を受けた社会保険労務士の先生から、筆者にメールが寄せられてくる頻度が増えました。
今月は、2つの事例を取り上げ、地方公務員共済組合に障がい年金請求書を提出するのか、それとも、日本年金機構に提出するのか、Q&A形式で、考えていきたいと思います。
請求者(A・B)は、いずれも地方公務員共済組合の組合員で、臨時的任用教員として、Z県教育委員会に任用され、Z県内の市立中学校で、勤務していたという設定です(設定した事例はあくまでもフィクションです)
なお、ここでいう「臨時的任用教員」とは、地方公務員法(昭和25年法律第261号)第22条の3に規定された「臨時的任用職員」のことであり、「臨時的任用教員」は、筆者が市長をしていた埼玉県では、『臨採(りんさい)』と呼ばれていましたが、自治体によっては、『臨任(りんにん)』と略称する地域もあるようです。
Q&Aの前提になりますので、臨時的任用職員の概略について、総務省が行った調査「地方公務員の会計年度任用職員等の臨時・非常勤職員に関する調査結果(令和2年4月1日現在)」がありますので、【図表1】に抜き出しておきます。一応、お目通しください。
臨時的任用職員(地方公務員法第22条の3):
常時勤務を要する職に欠員が生じた場合、緊急のとき・臨時の職など正式任用の手続を経るいとまがないときにその例外として認められ、勤務時間は常勤職員と同じフルタイムで任用される。
○臨時的任用職員の総数は6.8万人で、そのうち、都道府県が81.4%、指定都市が15.4%となっている。
○職種では「教員・講師」が8割以上を占めている。
※ | 学校の教員については、児童生徒数が年度開始時点に確定しない場合に対する時限的な教員の確保といった臨時の職などが該当する。 |
【出典】 | 総務省『地方公務員の会計年度任用職員等の臨時・非常勤職員に関する調査結果(令和2年4月1日現在)』 表紙・7頁 |
令和3年7月頃に初診日がある場合、
障がい年金の請求先はどこか?
Q1 令和3年7月頃に初診日があります(Aさん)。
このときは、Z県教育委員会の臨時的任用教員(音楽の専科担当)として任用(採用)され、令和3年4月から1年間(6月の任用期間で、1度更新され、任用期間が1年となる)、Z県y市の中学校に勤務していました。
いま、障がい年金の請求を考えています。
私が、障がい年金の請求をするのは、公立学校の教員だったので、公立学校共済組合Z支部でいいのでしょうか、それとも、Z県y市の中学校に勤務していたので、Z県市町村職員共済組合になりますか。
あるいは、日本年金機構の年金事務所でしょうか?
もしかすると、被用者年金制度一元化でワンストップサービスが実現しているので、どの実施機関に提出してもいいのでしょうか?
A1 障がい年金の請求については、原則として、初診日のある実施機関に提出することになっています。
したがって、どの実施機関でもいい、ということはありません。
初診日にどの実施機関に属していたかを特定する必要があります。
市立の中学校に勤務していたから、
市町村職員共済組合が請求先になるのか?
さて、Z県y市の中学校に勤務していたということですが、Z県教育委員会に臨時的任用教員として、任用されていたということですので、Z県市町村職員共済組合だったとは考えにくいです。
臨時的任用職員は、令和2年4月からは3号厚年、
しかし、令和4年10月以降は1号厚年へと変更(後述)!
ところで、「臨時的任用職員」については、令和2年4月1日に施行された改正地方公務員法により、「常時勤務を要する常勤職員と位置づけられ、採用の日から地方公務員等共済組合法の組合員になることとなった」(*)。
「従来臨時的任用職員は、採用されてから12月を経過しなければ組合員となることができなかったが、この法改正により、任用期間に関わらず、採用と同時に組合員となる」、(*)という変更がありました。
(*) | 【出典】「令和2年度地方公務員共済組合の決算状況」総務省自治行政局公務員部福利課佐藤芳太郎『地方公務員月報』(第一法規)2022年3月号153頁下段 |
地方公務員共済組合の組合員になるということは、第3号厚生年金被保険者になるということです。第1号厚生年金被保険者ではありません。
また、共済組合の組合員ですから、短期給付(医療保険に相当)も適用されます。
参考までに、令和2年3月までの地方公務員等共済組合法が適用される組合員の要件を【図表2】に記しておきましょう。
したがって、Q1の障がい年金の請求予定者Aさんが、従前より、臨時的任用教員として任用されており、【図表2】の<例外>の要件に該当する共済組合員として、地方公務員等共済組合法が適用されるかどうかを判断するまでもなく、改正地方公務員法の施行により、令和2年4月以降については、地方公務員等共済組合法が適用される共済組合員に該当していることになります。
すなわち、障がい年金の請求予定者Aさんは、令和3年7月頃に初診日があるということが事実とすれば、令和3年4月から令和4年3月までの期間は、臨時的任用教員として、公立学校共済組合の組合員(第3号厚生年金被保険者)だったということになりますので、初診日のある実施機関=公立学校共済組合Z支部に障がい年金請求書を提出するということになります。
なお、専科が音楽担当であっても、美術担当であっても、障がい年金の請求には関係はありませんが、本人が一生懸命話しているときに、「教科とか、専科は関係ありません」というと、相談しているときのコミュニケーションがギスギスした雰囲気になってしまいますので、その辺は、やわらかく対応していただくのがよろしいかな、と思います。
令和5年7月頃に初診日がある場合、
障がい年金の請求先はどこか?
Q2 令和5年7月頃に初診日があります(Bさん)。
このときは、Z県教育委員会の臨時的任用教員(美術の専科担当)として任用(採用)され、令和5年4月から1年間(6月の任用期間で、1度更新され、任用期間が1年となる)で、Z県d市の中学校に勤務していました。
いま、障がい年金の請求を考えています。
クリニックで診てもらったときに、公立学校共済組合Z支部の組合員証を、健康保険の被保険者証として使ったので、公立学校共済組合の組合員だったことに間違いはありません。
いま、障がい年金の請求を考えています。
私は、公立学校共済組合Z支部の組合員だったので、障がい年金請求書の提出をするのは、公立学校共済組合Z支部で間違いありませんね。
確認をさせてください。
臨時的任用職員は、令和4年10月以降は、
3号厚年から1号厚年へと変更!
A2 臨時的任用職員は、地方公務員法の改正により、令和2年4月から地方公務員共済組合の組合員(第3号厚生年金被保険者)となりました。もちろん、医療保険に相当する短期給付事業も適用されています。
さて、令和2年の年金改正法により、地方公務員等共済組合法が改正され、令和4年10月から被用者保険が適用される短時間勤務者等についても、地方公務員共済組合法が適用され、地方公務員共済組合の組合員になることになりました(【図表3】参照)。
ただし、地方公務員等共済組合法が適用される共済組合員になるのですが、適用されるのは短期給付事業(医療保険相当など)・福祉事業に限られ、長期給付事業(第3号厚生年金被保険者としての厚生年金保険・退職等年金給付)は適用除外とする、という改正内容でした。
この地方公務員等共済組合法の改正の際に、臨時的任用職員についても、改正があり、次のような変更がありました。
臨時的任用職員については、令和4年10月1日以降は、2月以内の任期を定めて使用される者であって、当該定めた期間を超えて使用されることが見込まれないものを除き、年金制度上、第1号厚生年金被保険者として厚生年金保険の適用対象となり、医療保険制度については、地方公務員等共済組合法上の短期給付及び福祉事業の適用対象となります。
【出典】 | 総務省自治行政局公務員部「会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル(第2版)」(平成30年10月〈令和4年12月23日付け公務員課長等通知による修正反映〉)20頁(注)青字は筆者による。 |
臨時的任用職員は、令和2年4月以降は、地方公務員共済組合の組合員になり、第3号厚生年金被保険者になったのですが、わずか1年半後の令和4年10月には、第1号厚生年金被保険者になってしまったのです。
しかも、今度は、永久に第1号厚生年金被保険者であり、【図表2】に規定された要件を満たしたとしても、第3号厚生年金被保険者になることはなくなりました。
国家公務員共済組合との均衡を図る、ということのようです。
共済組合の組合員であっても、
令和4年10月以降は1号厚年(短期組合員)!
Bさんの場合、令和5年7月頃に初診日があり、令和5年4月から1年間は臨時的任用教員ということでした。
この時期は、令和4年10月以降であり、短期組合員として、たしかに共済組合の組合員証を使って、医療機関を受診したのは間違いないのでしょうが、この時期の臨時的任用教員について、厚生年金保険の種別は第1号厚生年金被保険者です。
したがって、初診日は公立学校共済組合の組合員期間中であっても、初診日は第1号厚生年金被保険者のときとなりますので、障がい年金請求書の提出先は、日本年金機構(年金事務所)ということになります。
いずれにしても、初診日が確定したら、年金事務所などで加入記録を打ち出してもらって、そのときどこの実施機関に属していたのかを調べておくことのがいいでしょう(障がい年金請求書の提出は認定日以降)。
会計年度任用職員や再任用職員、任期付職員についても、1号厚年と3号厚年に分かれる可能性がありますので、機会があれば記してみたいと思います。