共済組合担当者のための年金ガイド
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- 【第100回】2024年10月号
この場合、障がい年金の請求は
どの共済組合にするのか?
公務員共済組合に提出する障がい年金の請求先について、どの共済組合に提出すればいいのか、たいへん頭を悩ます事例がありました。
共済組合の組合員にとっても、共済組合に障がい年金請求書を提出される社会保険労務士の先生方にとっても、参考になる事例と思いますので、実際に提出された社会保険労務士の先生のご了解をいただき、ご紹介いたします。
なお、実際の事例をもとにしていますが、個人情報を保護する観点から、一部情報を加工しており、あくまでもフィクションであるとご理解ください。
また、通知文を除き、引用文を含め、「障がい」とひらがな表記に統一しています。
障がい年金の請求書を提出するのは、国家公務員共済組合か、
地方職員共済組合か、それとも公立学校共済組合か?
加入歴がちょっと複雑なので、組合員の異動履歴をスムーズに理解してもらうため、【図表1】【障がい年金請求者の共済組合加入歴】で、筆者が情報を整理しました。
まずは、【図表1】の【障がい年金請求者の共済組合加入歴】をご覧ください。
国家公務員共済組合のときに初診日、
障がい認定日は地方職員共済組合、
その後、公立学校共済組合に移り、資格喪失後に、事後重症請求!
この事例の障がい年金請求者は、A県(知事部局)に任用された人なのですが、国に派遣され、このとき(国家公務員共済組合の組合員期間中)に初診日(傷病名:うつ病)があり、A県(知事部局)に戻ってきたとき(地方職員共済組合の組合員期間中)に障がい認定日があるという事案でした。
ただ、このときは、そんなに症状も重くなく、障がい年金の請求には至りませんでした。
その後、A県(知事部局)からA県教育委員会へ異動となり、地方公務員共済組合も、地方職員共済組合から公立学校共済組合の組合員に異動した、ということです。
そして、A県教育委員会に異動後、さらに、症状が悪化し、勤務が継続できない状態にまでなり、A県教育委員会を退職した、ということです。
退職に伴い、公立学校共済組合の組合員の資格を喪失し、その後、障がい年金の請求(事後重症請求)に至る、というのが大まかな経緯です。
【図表2】に、【障がい年金請求者の公務員異動履歴】として記しましたので、重複しますが、お読み取りください。
なお、【図表1】と【図表2】の①②③④⑤は符合させてあります。
①大学卒業後、A県(知事部局)で任用(採用)され、共済組合は地方職員共済組合A県支部の組合員となる。
②20年後、X省地方支分部局に1年間だけ派遣され、X省共済組合(国家公務員共済組合のひとつ)の組合員となる。
このときに、すなわち、国家公務員共済組合の組合員期間中に、本件障がい年金請求に係る傷病(うつ病)の初診日がある。
初診日は平成20年10月25日。
③X省地方支分部局への派遣が解かれ、A県(知事部局)に戻る。共済組合は、地方職員共済組合A県支部の組合員となり、障がい年金の障がい認定日は、地方職員共済組合の組合員期間中となる。
障がい認定日は平成22年4月25日。
④A県(知事部局)に5年間(60月)勤務したあと、A県教育委員会に異動となる。共済組合も地方職員共済組合から公立学校共済組合に異動する。
次第にうつ病の症状が重くなり、10年間勤務するが、退職に至る。退職に伴い、公立学校共済組合の資格は喪失する。
⑤退職後(国民年金に加入中)、障がい年金が受けられるかもしれないということを知り、障がい年金に詳しい社会保険労務士の先生に手続きを依頼する。
事後重症請求日は令和6年6月X日。
障がい年金の請求書の提出は、
原則、初診日のある実施機関のはずだが・・・
障がい年金の請求については、原則として、初診日のある実施機関に請求することになっています。
今回の事案についても、当初は、初診日のある実施機関ということで、X省共済組合本部(国家公務員共済組合)とやりとりをし、関係書類を送ってもらい、一度は障がい年金請求書をX省共済組合本部に提出したということです。
しかしながら、「障がい認定日が地方職員共済組合」ということで、後日、請求書等は返送されてきたということです。
【返送理由】として、「本件、障がい認定日時点に、ご本人が在職された『第3号厚生年金被保険者』(地方共済)での年金請求手続きとなることが判明したため」と記されていたということです。
障がい認定日請求(遡及請求を含む)を行うなら地方職員共済組合、
事後重症請求のみを行うなら公立学校共済組合
事務手続きをされた社会保険労務士の先生とX省共済組合・地方職員共済組合A県支部・公立学校共済組合A支部のやりとりの結論はというと、障がい認定日請求を行うなら地方職員共済組合、事後重症請求のみを行うなら公立学校共済組合ということのようです。
また、さかのぼって、障がい認定日請求(遡及請求)を行う場合、障がい認定日に障がい等級に該当しない場合は、請求事由を事後重症請求としても請求する意思確認のために【障がい給付 請求事由確認書】を添付することになっているので、この場合も地方職員共済組合A県支部に請求する、ということのようです。
初診日がない場合であっても、
障がい年金のとりまとめ実施機関になる場合とは?
平成27年9月30日に、厚生労働省年金局事業管理課長が発出した「被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律の施行に伴う事務の取扱いについて」(年管管発0930第13号)を見ると、初診日がない場合であっても、障がい年金のとりまとめ実施機関になる場合が記されています。
第5 障害給付に関する事務
1.年金請求書の取扱い<(1)~(3)筆者略す>
(4)特殊期間及び一時金返還期間を有する者のとりまとめ実施機関
① 原則として、初診日のある実施機関がとりまとめ実施機関となるが、請求者が次のアからオの特殊期間を有する場合は、当該特殊期間を有する実施機関が、保有する期間中に初診日がない場合であっても、とりまとめ実施機関として受付・審査・決定等を行う取扱いとすること。
- ア 追加費用対象期間
- イ 沖縄農林共済期間
- ウ 沖縄控除期間
- エ 沖縄特例納付期間
- オ 地方公共団体の長の特例加算を有する期間
② 原則として、初診日のある実施機関がとりまとめ実施機関となるが、退職一時金の返還等が生じる場合は、アからウのとおり、とりまとめ実施機関とすること。
- ア 一時金返還期間が1つの場合
- 初診日のある実施機関以外で返還等が生じる場合にあっては、返還等が生じる実施機関とする。
<イ・ウ以下、筆者略す>
通知文に記載されているとおり、「原則として、初診日のある実施機関がとりまとめ実施機関となる」のですが、「請求者が追加費用対象期間などの特殊期間を有する場合は、その追加費用対象期間を有する実施機関が、保有する期間中に初診日がない場合であっても、とりまとめ実施機関として受付・審査・決定等を行う取扱いとする」と記されています。
共済組合間の組合員の異動が生じている場合の
障がい年金のとりまとめ実施機関とは?
「公立学校共済組合本部 年金部」が刊行した『長期給付事務処理要領』(平成28年12月)があります。
753頁にわたる大部の事務処理に関する取扱書ですが、その276頁には、次のように記されています。
「初診日に加入していた実施機関が、取りまとめ実施機関となる。」
「ただし、共済組合間の組合員の異動が生じている場合は、障がい認定日(障がい認定日請求の場合)もしくは事後重症請求日における所属機関が取りまとめ実施機関となる。」(筆者注:「障がい」の文言は、原文は漢字表記)
これを読むと、共済組合に障がい年金の請求の手続きをされた社会保険労務士の先生が、各共済組合側から受けた説明と符合するように思われます。
なお、今回の事案については、障がい認定日における障がいの状態を勘案し、事後重症のみの請求を行ったとのことであり、事後重症請求日に加入していたのは国民年金でした。
一番最後に加入していた共済組合は、公立学校共済組合なので、公立学校共済組合に請求したとのことです。
また、障がい等級は2級で、障がい厚生年金2級・障がい共済年金(経過的職域加算額)2級の年金証書(一元化後に受給権が発生しているため)が、公立学校共済組合から届いたとのことです。
あわせて、障がい基礎年金2級の年金証書も、日本年金機構から届いたとのことです。
くわえて、障がい年金生活者支援給付金の請求書については、「公立学校共済組合に障がい年金請求書を令和6年6月X日に提出済」との付箋を添付して年金事務所に提出していたので、こちらの手続きは全く問題がなかった、とのことでした。
共済組合の組合員期間については、擬制規定が置かれ、
あとに組合員資格を取得した共済組合の組合員期間とみなされる!
最後に、余談ながら、共済組合の組合員期間については、擬制規定が置かれ、あとに組合員資格を取得した共済組合の組合員期間とみなされる、ことになっています。
参考までに条文を示しておきましょう。
地方公務員等共済組合法(昭和37年法律第152号)
(組合員の資格の得喪)
第39条 職員となつた者は、その職員となつた日から、それぞれ第3条第1項各号(筆者注:地方職員共済組合、公立学校共済組合などの組合のこと)又は第2項に規定する組合の組合員の資格を取得する。
2 (略)
3 一の組合の組合員が他の組合を組織する職員となつたときは、その日から前の組合の組合員の資格を喪失し、後の組合の組合員の資格を取得する。
(国家公務員共済組合法との関係)
第143条 組合員が退職し、引き続き国の組合の組合員のうち、国家公務員共済組合法の長期給付に関する規定の適用を受ける者となつたときは、長期給付に関する規定の適用については、その退職はなかつたものとみなす。
2 組合員が国の組合の組合員となつたときは、当該国の組合を他の組合と、当該国の組合の組合員を他の組合の組合員と、それぞれみなして、第39条第3項の規定を適用する。
(組合員期間の計算)
第40条 (略)
3 組合員が引き続き他の組合の組合員の資格を取得したときは、元の組合の組合員期間は、その者が新たに組合員の資格を取得した組合の組合員期間とみなす。
4 組合員がその資格を喪失した後再び元の組合又は他の組合の組合員の資格を取得したときは、前後の組合員期間を合算する。
これらの規定を踏まえると、共済組合の組合員が障がい年金を請求する場合には、認定日請求(遡及請求を含む)にせよ、事後重症請求にせよ、加入記録等については、すべて、現在加入する共済組合に移換されているのだから、初診日が共済組合にある場合については、現在加入している共済組合に請求すればいいように考えますが、どうでしょうか。
あわせて、すでに公務員を退職して、共済組合の組合員の資格を喪失している場合については、初診日が共済組合の組合員のときは、認定日請求(遡及請求を含む)にせよ、事後重症請求にせよ、最後に加入していた共済組合に請求することにすれば、わかりやすくなると思いますが・・・。
地方公務員共済組合においては、被用者年金制度一元化後の平成30年度以降のデータをみると、毎年約2千人の人に障がい年金の受給権が発生し、令和5年3月末では、約1万4千人になっています。
平成31年3月末の時点では、約6千人だったので、ここ5年間でおよそ2倍に増加していることになります(2024年1月11日に開催された社会保障審議会・年金数理部会に提出された【資料2】【令和4年度財政状況-地方公務員共済組合-】4頁)。
いずれにしても、悩ましい事例に遭遇したときは、各共済組合の担当者とよく相談しながら、手続きを進められるのがよろしいかと存じます。レアケースの場合では、各共済組合の担当者も、即答できない場合があろうかと思われます。
今後も機会をとらえて、共済組合の障がい年金に関する情報をお伝えしていきたいと考えています。
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本稿を執筆するにあたり、滋賀県社会保険労務士会の髙井隆先生から多大なるご指導をいただきました。この場を借りて、厚く御礼を申し上げます。