約1万人との面談を通じて感じるのは、知識や経験豊富な人ほど、人から相談されたとき、まだ2割くらいしか聞いていないのに、「あ〜分かった、分かった。そういうときは……」とアドバイスや解決方法を話し始めてしまう傾向があるということです。
このとき、相談に来た人が本当にアドバイスを求めていたのならいいのですが、実際はただ自分の話を聞いてほしい、どんな状況かを分かってほしい場合もあります。上司と部下、夫と妻、親と子、友人同士などとの会話の中で、やってしまいがちなコミュニケーションです。
周りの人にストレスや不安を感じさせない、しなやかなコミュニケーションのために心掛けたいのは、「相手を認める習慣」です。「認める」とはどういうことでしょうか。
「認」という字は「言う」を「忍ぶ」と書きます。人間には耳が2つ、口は1つですね。話す2倍は聞く、と考えてください。つまり、黙って相手の話を聞くということです。特に、知識や経験が豊富で、優秀な人こそ、言うを忍んで相手の話すことを聞く習慣を心掛けてみてください。
そうすることによって、相談をした人は、自分のことを認めてもらったと感じます。人は、アドバイスをもらうより認められることで「話してよかった、次も頑張ろう」と思うものです。
相手の話を聞く際には、話の内容から想像することも大切です。傾聴(アクティブリスニング)ではよく、「共感しましょう」と教わりますが、状況や背景が違うことに共感するのは難しいときもあります。話の内容によっては、共感する気になれない場合もあるでしょう。
私は傾聴を否定するわけではありませんが、共感できなくても、したくなくても構わないと思います。ただ、そのときも、せめて想像はしてみましょう。
相手がどれくらい苦しいのか、どれくらいつらいのか、どのような状況なのか、その人の立場に立って想像してみてください。そうすることが相手の存在を認めるということにつながります。
良かれと思って、「アドバイスをしてあげている」ことが多いのなら、今日から「言うを忍んで」みませんか?
相手が解決方法を知りたいのか、聞いてほしいだけなのかは、話を聞いてみないと、分からないものですよ。
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