これまで産業医として約1万人と面談してきた経験から、ストレスが多い現代でも、笑顔の人たちが集まる空間があると感じています。その中心にいる人は、相手に分かりやすく伝える習慣があり、その空間では「しなやかなコミュニケーション」が取れているのです。
私たちの頭に入ってくる情報のうち、約75%は目(視覚)から得ていますが、実は「見たいもの」しか見ておらず、「見ているつもり」で見ていない情報がほとんどなのです。これをコミュニケーションに当てはめると、自分は伝えたいと思っていても相手の知りたいことだけが伝わっているかもしれない、ということです。
相手が知らないことがあると知っている人は、「〜だろう、~に違いない」などの断定形ではなく、「もしかしたら~かもしれない」という考えを基盤とし、伝え方を考えています。
さらに、分かりやすく伝える習慣のある人は、自分が把握できることについては主観的判断と客観的事実とを分けて考え、区別して伝えています。
「主観的判断」とは個人的な評価や意見です。誰もが納得でき、理解可能な知識や考え方(フレーム)で説明できるということが重要です。前提となるこのフレームの中で判断し、説明するからこそ説得力があり、伝わりやすくなります。
「客観的事実」とは、性別、年齢や資格、家族構成や所属など、再現性があり、数字などにして比べやすい事実のことです。誰が伝えても、同じように受け止め、理解してもらえます。
会話の中で、何が主観的判断でどれが客観的事実なのかが混在している人の説明は理解しにくく、しっかり分けられた人の説明は説得力があり、理解しやすくなります。
つまり、日頃から、相手は知らないかもしれないという考えのもと、主観的判断と客観的事実は分けて伝えるようにするということです。伝えているつもりでも伝わらないときは、相手のことやフレームのズレなど、どちらかが「見えて」いない場合が多いのです。
思い出せない猫田くんに共感している人は多いのでは? 自分が見えていることだけで判断すると、伝わりにくい上に「そうじゃない」というズレが生まれやすくなります。一拍置いて「〜かもしれない」と違う視点で考える習慣を持ってみましょう。❝分かってくれないストレス❞が減ってきますよ。
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