怒らない、怒らない。

「今はピリピリしているから、相談は後にしよう」「不機嫌オーラが出ているし、そっとしておこう」「また声を荒らげているよ」などなど。

これらはすべて、職場の上司に対する部下の心の声です。忙しい毎日が続くと、イライラすることもありますが、ネガティブな感情をあらわにし、周囲にそれをぶつけるのは望ましいことではありません。

感情をあらわにする人は、心のどこかに甘えがあるのではないでしょうか。例えば、大事な取引先との打ち合わせで不機嫌な態度をとる人はまずいません。

なのに、部下に対して感情を示すのは、部下なら「許される」と思っているからです。一方、そのような態度を気にかけなくてはならない立場の部下たちは、仕事とは直接関係ないことにエネルギーを使うことになります。

人はなぜ怒るのか。どうして不機嫌になるのか。その理由について、平木典子さんの本にこんなことが書いてありました。

「人は自分に対処できることであれば対処すればよいだけなので感情が動くことはないが、自分に対処できないことが起こったとき、怒りを表現してしまう」。

「攻撃的な怒りの表現とは〈略〉自分の無力を認めず、相手に脅威を与え返すことで、その場をしのごう、優位を保とうとする行為」。

怒りは、「自分の無力のアピールになる」という意味です。これを読んで以来、そんな大人気ないことをするのはやめよう、と肝に銘じたものです。怒りは自分の無力の表現と思ったら、カッコ悪くて怒っている場合ではなくなるのではないでしょうか。

自分の感情をコントロールするのは、大人の嗜たしなみです。上機嫌を保つには、自らを客観視し、自制心を働かせる必要があります。あるテレビアニメで、定番のセリフがありました。「あわてない、あわてない。一休み、一休み」。この言葉を借りれば、「怒らない、怒らない。一呼吸、一呼吸」ですね。

<参考>
平木典子『図解 自分の気持ちをきちんと「伝える」技術―人間関係がラクになる自己カウンセリングのすすめ』PHP研究所、2007

Profile

たなか じゅんこ1986年日本DEC入社、IT技術教育に従事した後、コミュニケーションなどビジネススキル教育を手掛けるようになる。1996年から現職。著書に『現場で実践! 若手を育てる47のテクニック』(日経BP社)、『ITエンジニアとして生き残るための「対人力」の高め方』(共著、日経BP社)など。

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