疑問文、やめてみる?

「これ、全部一人でできたの?」という言葉には、「一人でできるなんてすごいね!」という称賛や「一人でできるなんてびっくりした」といった感嘆の気持ちが込められていることがあります。少なくとも、本当に一人でできたかを確認したいわけではないはず。自分の気持ちを伝えたいために、疑問文で尋ねているのです。

この例のように、私たちは、疑問文を「純粋に疑問があるから使う」とは限りません。

「なぜ?」という言葉が使われる場面も、必ずしもその理由を問うているわけではありません。

例えば、遅刻により気分を害してしまった相手から、「なぜ遅れたの?」と非難を込めた声で尋ねられたとき、字義通りに「寝坊したからです」と理由を答えると、相手を余計に怒らせることにもなりかねません。この場合、「なぜ遅れたの?」と聞かれても、その理由を答えるより、「遅くなって、申し訳ない!」と謝ることが先決だということは、直感的にお分かりになるのではないでしょうか。

英語の授業で、“Why...?”で始まる疑問文には“Because...”で答えると習いましたが、現実では、このように“Because...”で答えることを期待されていない場面は多々あるわけです。

私たちは不平不満を言うためや褒めるためにも、ごく自然に疑問文を使ってしまいます。言われた側も「純粋な疑問文」なのか、「言外に真意が含まれている」のかを瞬時に読み取る力が求められます。なんとメンドクサイやり取りを私たちはしているのでしょう!しかし、考えてみれば、疑問文で遠回しに言うよりも、もっとストレートに言いたいことを言った方がよい場合もあるはずです。

「なぜ遅刻したの?」という疑問文の代わりに、「10分待ったよ。時間通りに来てほしかったな」などと正直に表現してみる。この方が自分の気持ちを相手にきちんと伝えることができます。身近な人にこそ、疑問文に頼らない表現も取り入れていきたいものです。

Profile

たなか じゅんこ1986年日本DEC入社、IT技術教育に従事した後、コミュニケーションなどビジネススキル教育を手掛けるようになる。1996年から現職。著書に『現場で実践! 若手を育てる47のテクニック』(日経BP社)、『ITエンジニアとして生き残るための「対人力」の高め方』(共著、日経BP社)など。

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