声出していこう!

新入社員研修を担当していると、「反応が薄い」ことに毎年驚きます。例えば、受講者を指名した際、顔を上げて目で反応はするものの、声を出して「はい」と返事をする人は多くありません。

「名前を呼ばれたら声を出して返事をしてくださいね」と何度か伝えていくうちにきちんと返事をするようになりますが、実はこれ、新入社員に限ったことではありません。20代どころか、30代や40代でも声で応じてくれないことは多々あります。

仕事柄さまざまなオフィスビルにお邪魔します。そのたびに気になる光景があります。ビルの入り口に立つ守衛さんが大きな声で「おはようございます」とあいさつしても、あいさつを返す人が少ないばかりか、会釈する人さえあまりいないのです。

これは場面が変わっても似たようなもので、コンビニやスーパーなどの買い物客も声を出さない人が大勢います。何か聞かれても単に首を縦か横に振るだけ。「はい」や「お願いします」と口に出して答える人は非常に少ないように思えます。

かく言う私も、コンビニやスーパーで買い物をしていて、首を振って反応している自分にふと気付き、これではいけない、と反省した一人。それ以来、意識的に声を出すようになりました。「袋に入れますか?」「お願いします」「袋は一つにまとめてもよろしいですか?」「構いませんよ」などなど。ほんのささいな一言ですが、きちんと文章で話すように心掛けるだけで、不思議と自分の心持ちまで明るくなることに気付きました。

「感情労働」という言葉があります。自分の感情を押し殺し、笑顔で相手に接する必要があるような労働を指します。現代は、あらゆる職業が「感情労働」といえるかもしれません。

感情の抑制を強いられると、高ストレス状態に置かれることになります。サービスを受ける側も、せめて「声を出して反応する」くらいの気遣いはしたいもの。それが、互いに気持ちよく暮らすコツではないかと思うのです。

Profile

たなか じゅんこ1986年日本DEC入社、IT技術教育に従事した後、コミュニケーションなどビジネススキル教育を手掛けるようになる。1996年から現職。著書に『現場で実践! 若手を育てる47のテクニック』(日経BP社)、『ITエンジニアとして生き残るための「対人力」の高め方』(共著、日経BP社)など。

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