血管壁にできたプラークが育ち、破裂しやすい季節
「ヒトは血管から老いる」といわれるように、年をとるとともに血管は硬くなり、動脈硬化が生じやすくなるものですが、それだけでなく、生活習慣などが原因で、とり過ぎたコレステロールなどが血管壁にたまり、コブのようなプラークができる人が増えています。
特に冬はつい運動不足になる上、忘年会や新年会などによる食べ過ぎ、飲み過ぎが続いて、血液中に余分な糖やコレステロール、中性脂肪が増えるリスクが大。これらが血管壁のプラークをさらに育てる大もとになります。
その上、冬は寒さで血管が収縮するため、ただでさえ血圧が上がりやすい季節。さらに室内外の温度差によるストレスで血管に強い圧力がかかると、突然プラークが破裂することがあります。そうなると、破れを修復しようと血液中の血小板が集まり、それらが凝縮した血栓(血のかたまり)が血管をふさいで、心筋梗塞や脳梗塞を起こす危険が高まります。
冬が怖いのは、このようにプラークが育ちやすく、破れやすい状態になるからです。実際に、冬のさなかに働き盛りの40歳~50歳代が、心筋梗塞や脳梗塞に突然見舞われるケースが後を絶ちません。
悪玉コレステロールの数値が
正常でも安心できない
そこで気になるのが、プラークによる動脈硬化の進行状態ですが、健診での血中脂質の検査値がひとつの目安です。〝悪玉〟と呼ばれるLDLコレステロール値に目がいきがちですが、むしろ注目したいのは〝善玉〟と呼ばれるHDLコレステロール値と中性脂肪の数値です。
血液中のHDLが減ると、余ったLDLが回収されずに血管壁にコレステロールが蓄積します。また中性脂肪値が高いと血中のHDLが減り、〝超悪玉〟と呼ばれる小型LDLが多く現れ血管壁に入りやすくなり、酸化・蓄積していきます。
ですから、LDL値が正常でも、HDL値が低い人や中性脂肪値が高い人は、プラークが育ちやすく、動脈硬化が暴れ出しやすい状態と考えられます。実際に日本の場合、心筋梗塞を起こした人は、圧倒的にHDL値が低い人が多いのです。
冬に多発するヒートショックに注意!!
ヒートショックとは、急激な温度変化によって血圧が乱高下すること。例えば、暖かい部屋から寒い脱衣所への移動で血圧が急上昇。熱いお湯につかると、さらに血圧が上昇。やがて適度な温浴で体が温まると、今度は血管が拡がって血圧が急降下。こうした急激な血圧の変動が、心臓や脳の血管に大きな負担をかけ、心筋梗塞や脳梗塞の引き金になります。脱衣所は小型の暖房器具で、浴室は湯船にお湯をためたらふたを取り、湯気で暖めておくなどの対策を。
血管の健康を守ることは全身の健康を守ること
なぜHDLが健康や寿命にとってこれほど重要なのでしょうか。
HDLの働きは、余分なコレステロールを運び出すだけではありません。ほかにも、抗酸化作用、抗炎症作用、抗血栓作用、内皮細胞の修復作用など、多くの作用があることが分かっています。
余分なLDLの酸化を防ぎ、高い血圧によって傷ついた内壁を修復し、血管を詰まらせる血栓ができるのを防いで、動脈硬化の暴走を阻止する抑制力になっているのがHDLなのです。
体のライフラインである血管の健康を守ることは、そのまま全身の健康を守ること。そのためにはHDLを減らさないように、下のような生活を心掛けましょう。特に冬は動くのがおっくうになるので、意識して体を動かすことが大事。歩く距離を増やすだけでも、HDLが確実に増えることが分かっています。
また、血圧が高めの人は、ヒートショック(右記参照)にも十分な注意を。
動脈硬化の暴走を防ぐ
冬の生活習慣
- 毎朝体重を量る
(食べ過ぎを防ぐ) - 食生活は和食中心に
( 塩分は控えめ) - 1日10分、適度な運動を続ける
- 外出時は体を冷やさない服装で
(薄手の服の重ね着で調整しやすく) - 睡眠を十分にとる
動脈硬化を防ぐ最大のポイントは、善玉のHDLコレステロールを増やして、悪玉の LDLコレステロールを酸化させる中性脂肪を減らすこと。そのための確実な方法が運動 です。ウォーキングも効果的ですが、寒い冬は室内で手軽にできるスロートレーニングが おすすめです。ゆっくりとした動作を繰り返すトレーニングなので、膝や関節にかかる負担が少なく、筋肉への血流を高めます。毎日1回でも2回でも、できる範囲で体を動かしましょう。