がんは、健康習慣で確実に減らせる!!

 

細胞のがん化は老化現象のひとつ

増え続ける日本のがん患者数。大きな理由は、近年の急激な高齢化。高齢者の割合が増えたからです。

がんは〝細胞の老化現象〟と考えることができます。私たちの体の細胞は 発がん細胞分裂を繰り返していますが、その際、何らかの原因で細胞の中の遺伝子が傷つき、突然変異を起こすことがあります。通常、変異した細胞は自然死するか、免疫細胞により排除されますが、まれに生き残った変異細胞はがん細胞になって増殖し、長い時間をかけてがんという病気になるのです。

こうした細胞のがん化は、高齢になるほど起こりやすく、実際に統計でも 65歳くらいまでにおよそ10人に1人、80歳ぐらいまでには男性で3人に1 人、女性で4人に1人ががんになっています。

長寿の人ほどがんになる確率も高くなるわけですが、40~50代の働き盛 り世代にとっても、がんは死亡原因の約30~50%を占める怖い病気であることに変わりはありません。

細胞のがん化は老化現象のひとつ

原因のほとんどは遺伝よりも生活習慣

よくがんは遺伝するといわれますが、遺伝するがんは全体の5%以下。むしろ、生活習慣が大きく作用していると考えられます。

がん予防のための生活習慣に関する情報はちまたにあふれており、国際的ながんリスクの研究成果も目にします。しか し科学的根拠に乏しい情報も多く、欧米人中心のデータから引き出された評価は必ずしも日本人に当てはまるとはいえません。

そのため国立がん研究センターをはじめとする研究グループでは、数万人規模で追跡調査した疫学研究などを基に、が んとの因果関係を評価し明らかな要因の相対リスクなどを分析。科学的根拠に基づいた「日本人のためのがん予防法」を示しました。

5つの健康習慣でがんのリスクはほぼ半減

その中で、日頃の生活習慣に関わる項目は「禁煙」「節酒」「食生活」「身体活動」「体型の維持」の5項目。当たり前のことと思われるかもしれませんが、これらのことに気を付けて生活している人とそうでない人とでは、がんになるリスクは大きく違ってきます。

国立がん研究センターが追跡調査した結果、健康習慣が多いほどがんになるリスクは低くなり、5つ実践している人は、実践が0または1つの人よりも、男性はリスクが43%、女性は37%も低いことがわかりました(右グラフ)。生活習慣の注意で、これからはもちろん、さらに高齢になってからでもがんのリスクは減らすことができるのです。下記の5つの健康習慣を、早速生活に取り入れましょう。

5つの健康習慣でがんのリスクはほぼ半減

「感染」にも要注意 !!

がんとの関係で分かっているのは「B型肝炎・C型肝炎ウイルスによる肝がん」「ヘリコバクター・ピロリ菌による胃がん」「ヒトパピローマウイルスによる子宮頸がん」などです。中でも肝がんの90%は、肝炎ウイルスが原因。 中高年世代は、一度は検査を。感染している場合は、適切な治療をしましょう。

「感染」にも要注意 !!

科学的根拠に基づいたがんを予防する5つの健康習慣

1. 禁煙する

タバコの煙には60種類もの発がん物質が含まれており、禁煙はがん予防の確実な一歩。難しい場合は、禁煙外来などを利用するのも1つの方法です。肺がんの他、食道、膵すい臓ぞう、胃、大腸、ぼうこう、乳房などのがんにかかるリスクが下がります。

吸わない人も受動喫煙で肺がんや乳がんのリスクが上がるので、他の人のタバコの煙はできるだけ避けましょう。

2. 節酒する

お酒は適量ならよいのですが、多量に飲むほど食道がんや大腸がんな どのリスクが上がります。女性は乳 がんのリスクが上がることも示され ています。また、飲酒しながら喫煙 する人は、がんの発生率がさらに高まる傾向に。

1日あたりの適量飲酒の目安
  • 日本酒...1合
  • ビール...大瓶1本
  • 焼酎や泡盛...1合の2/3
  • ウイスキーやブランデー
    ...ダブル1杯
  • ワイン
    ...ボトル1/3程度

3.食生活を見直す

減塩する...塩分のとり過ぎは胃がんの大きな原因のひとつ。1日の食塩摂取量は男性9g未満、女性7.5g未満を目標に。たらこや塩辛などの高塩分食品は週1回までに。

野菜と果物をとる...毎日、野菜を小鉢で5皿、果物1皿を食べるようにすると、食道がんや胃がんなどのリスクが減ります。

熱い飲食物は避ける...食道がんのリスクを下げるという報告があります。

4.体を動かす

運動だけでなく、仕事や生活の中で体を動かしている人ほど、結腸がんをはじめがん全体の発生リスクが下がります。座って仕事をすることが多い人は、ほぼ毎日、歩行などの身体活動を合計1時間ほど行い、週に1回は活発な運動(60分ほどの速歩き、30分ほどのランニングなど)を取り入れるとよいでしょう。

5.体重を管理する

がんなどによる死亡リスクは男女とも太り過ぎても痩せ過ぎても上がります。中年期以降は、男性はBMI*21~27、女性はBMI19~25の範囲になるように体重を管理すると、がんの発生リスクが上がらないでしょう。

早期発見すれば怖くないがん

早期発見すれば怖くないがん

メリットとデメリットを知った上で「がん検診」を

がんの多くは、発がんしてから長い年月をかけて早期がんになり、ほとんど自覚症状がないまま進行します。進行度はI期~IV期に分類されていますが、I期で発見し適切な治療を受けた場合、5年相対生存率が約100%のがんもあります。

そこで、早期発見・早期治療を行い、がんによる死亡率を減少させることを目的としているのが「がん検診」です。科学的根拠に基づいた有効性が確立され、自治体が推奨する「がん検
診」を受けましょう。

ただし、検診で全てのがんが発見できるわけではありません。中には、放置しておいても進行しないがんが見つかることもあります。

そうした前提を踏まえつつ、定められた適切な間隔で、定期的な「がん検診」を心掛けましょう。

推奨される5つのがん検診

胃がん検診
胃がん検診

・対象:40歳以上の男女、1年に1回
・問診・胃部エックス線検査

胃部エックス線検査

バリウム(造影剤)を飲み、胃の内部をエックス線で撮影する。

大腸がん検診
大腸がん検診

・対象:40歳以上の男女、1年に1回
・問診・便潜血検査

便潜血検査

便を採取し、便にがんに関わる血液が混じっているか調べる。

肺がん検診
肺がん検診

・対象:40歳以上の男女、1年に1回
・問診・胸部エックス線検査喀痰細胞診

胸部エックス線検査

エックス線で肺全体を撮影する。また、痰を採取し、肺がんの細胞が混じっていないかを顕微鏡で調べる。

乳がん検診
乳がん検診

・対象:40歳以上の女性、2年に1回
・問診 ・視診 ・触診
・マンモグラフィ(乳房エックス線検査)

マンモグラフィ

専用のエックス線装置に、乳房を挟んで圧迫し撮影する

子宮頸がん検診
子宮頸がん検診

・対象:20歳以上の女性、2年に1回
・問診・視診・内診
・子宮頸部の細胞診

子宮頸部の細胞診

医師が子宮頸部や膣の状態を診察する。また、ブラシや綿棒などで子宮頸部から採取した細胞を顕微鏡で調べる。※子宮体がんが疑われる場合、子宮体部の細胞診を行うことも。

メリットとデメリットを知った上で「がん検診」を
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監修:国立がん研究センターがん予防・検診研究センターセンター長 津金昌一郎(つがねしょういちろう)

1981年慶應義塾大学医学部卒業、1985年同大学院修了。医学博士。1986年より国立がんセンター研究所疫学部研究員、臨床疫学研究部長、予防研究部長などを歴任。「多目的コホート研究」など各種の研究班の主任研究者を務める。『なぜ、「がん」になるのか?その予防学教えます。』(西村書店)など著書多数。

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