※平成11年 厚生省疲労研究班調べ
一晩眠っても疲れが取れない、昼間に居眠りをしてしまう、そんな日が続いていませんか?
現代人の多くが、たまる一方の疲れで、身も心もかなりのクタクタ状態。
実はこれを放っておくと、やがて体も疲れを感じなくなってしまうのです!
現代人に慢性疲労が増えている背景には、ITの急速な普及に伴う社会環境の変化があります。高度情報化社会の中で、切れ間なくパソコンや携帯電話で小さな文字を操作する生活は、思っている以上に目や脳を酷使しています。しかも多忙なほど、大切な睡眠時間が犠牲になりやすく、それも心身の疲労を増大させている大きな要因の一つです。
疲れというと、つい軽く考えてしまいがちですが、慢性疲労は確実に心身を蝕む「病的な疲労」と考えるべき。ただでさえ、ストレスの多い現代社会で生きる私たちは、疲れのサインにもっと敏感でなくてはなりません。
特に気をつけなければならないのが、仕事人間タイプ。慢性疲労が進行していても、仕事に満足感を感じる人は、脳内から疲労感を打ち消す神経伝達物質が分泌されやすく、疲れを自覚できなくなっているからです。必要な睡眠や休息を取らないでがんばり続けた結果、心臓発作を招いたり、心身のバランスを崩したりするおそれがあります。こうして自律神経失調症やうつ、過労死にまでいたる人もいます。
疲労というのは、本人がどう感じるかという主観的な問題で、客観的な測定は難しいと思っていませんか。実は、現代科学はそれを可能にしようとしています。
人は疲れてくると動作が緩慢になり、注意力や集中力が落ちて、刺激に対して反応するまでの時間も長くなります。また、酸化ストレスが増加することや、免疫力が低下することがわかっています。そこで近年、脳のCT画像や心電図、血液検査を始めとする検査によって、疲労を客観的に測定する方法が開発されています。
その方法の一つに、1日の活動量を調べる「アクティグラフ」があります。健康な人は日中、高い活動量を維持していますが、慢性疲労の人は活動量がときどきガクンと下がります。つまり居眠りしているということです。また、睡眠時には中途覚醒が多く現れ、睡眠の質の低下も見られます。もし仕事中に眠くなったり、夜中に目を覚ましたりするようなら、思っている以上に慢性疲労が進行している可能性もあります。思い切って仕事を休む決断を。
疲れたときには、眠るのがいちばん。体の疲れなら休息によってある程度回復できますが、膨大な情報を処理している脳を休ませる唯一の手段が睡眠です。また、体内の細胞の再生や修復も夜眠っているあいだに行われています。睡眠時間が少なかったり、ぐっすり眠れていなかったりすると、体のメンテナンスが十分に行われず、疲れやすい体になってしまいます。夜型生活はやめて、昼間働いたら夜は早目に休む、という本来の体内リズムに戻しましょう。
また、食事は1日3食規則正しく、栄養バランスのよいものを。特に疲れたときは、疲労回復作用のあるビタミンB1やビタミンC、カルシウム、クエン酸などを補給しましょう。
仕事のことを忘れる時間は、いわば自分をリセットするための息抜きの時間。以下で紹介している4つの習慣を取り入れるだけでも、心身の疲れがほぐれ、きっとらくになるはずです。
神経が疲れたときはよい香りに触れてみましょう。フィトンチッドなど緑の香りには、心身の緊張や興奮を和らげる働きがあります。
長く息を吐くことを意識していると、副交感神経が優位になってきて、心身がリラックスモードになります。イライラしたときは、静かにゆっくり深呼吸をしてみましょう。
動かないでいるのも疲れやすくなる原因に。ときどき、肩を回したり、背伸びをしたりすると、筋肉がほぐれ、疲れがたまりにくくなります。
37~39℃のお湯にゆっくりつかれば、血行がよくなり気分もリラックス。入浴後に床に入れば、スムーズに眠りに就きやすくなります。
日本医科大学卒業。同大学付属第一病院神経科、同大学東洋医学センター顧問を経て現職。特別養護老人ホーム「センチュリー21」「小郡・山手一番館」の理事長も務める。著書に『名医の図解 うつがよくなる生活読本』(主婦と生活社)などがある。