私たちが生きていくために欠かせない「水」。
しかし夏場は汗で水分がどんどん失われ、それに見合う分だけ水分をとっていないと、思わぬときに脱水症状を起こすことがあります。
熱中症の危険はもちろん、水分が不足して粘度を増した血液が流れる体では、脳梗塞や心筋梗塞の危険もアップ。
夏は正しい水分補給を忘れずに!
気温の高い夏期には、毎年20人前後の死亡災害が発生しており、年代も幅広く、業種では特に建設業に多く見られます。
※「職場における熱中症予防対策マニュアル(厚生労働省)」より
私たちの体は暑いとき、汗をかいて熱を放出して体温を調整しています。夏は汗で水分を失いやすいため、それに見合う量を補給しないと、発汗機能がうまく働かなくなり、熱の放出が追いつかない状態になります。その結果、体温が著しく上昇し、血液は濃縮されて流れが悪くなり、脳への血流が低下して起こる障害が「熱中症」です。
人間の体は、体重の1%程度の水分を失うだけでも脱水状態になり、のどの渇きを感じます。4~5%失うと、発汗量が減るために体温はさらに上昇し、吐き気やめまいなどの症状が現れます。もし熱中症にかかっても、軽症であれば涼しいところで休ませて、水分を補給するなどの処置で回復できますが、放置したり無理にがんばったりすると、脳や内臓の障害を起こし、命を失う場合もあります。
熱中症のいちばんの特徴は、症状が急スピードで悪化すること。炎天下では労働中の死亡災害につながる場合もあるので(右グラフ)、屋外で作業する人は特に十分な注意が必要です。
夏の脱水症状でこわいのは、実は熱中症だけではありません。水分の摂取不足が、日本人の死亡原因の多くを占める脳梗塞や心筋梗塞などの発症につながっていることは、意外に知られていません。
脱水状態になると、血液の粘度が高まり、いわゆるドロドロ血液になります。加えて、熱を放出するために血管が拡張するので血圧は低下します。そのため血液の流れが遅くなり、脳や心臓の血管に血栓が詰まりやすくなります。
実際に、脳梗塞の発症は暑い夏にも多く見られます。また夜間から早朝にかけての時間帯が最も多いのも、眠っている間は水分がとれないため脱水状態になりやすいことが大きな原因と考えられます。
夏の水分不足に用心を。生命にかかわる疾患の発症リスクに直結していることを忘れずに!
水分は、のどが渇いたときにとるのが基本ですが、暑い時期は水分が失われやすいので、渇きを感じる前に早めに補給を。ただし、一度に大量に飲むと、血液中のミネラルバランスが崩れる原因です。一回の分量は、小さなコップ1杯程度で、起床時、外出前、飲食中や飲食後、入浴の前・後、就寝前などに飲めば、1日に必要な量はおおむね補給できます。また、飛行機などで長距離移動するときも、意識的に補給しましょう。
日常的に飲むのはふつうの水で十分です。脱水状態になり掛けているときは、水よりも吸収が速く、汗で失われたミネラルも補給できる経口補水液(*)や、ミネラル分が含まれている麦茶がおすすめです。
*経口補水液は、スポーツドリンクに比べて糖分が少なく、電解質の組成がWHO(世界保健機関)の基準に基づいた飲料です。ドラッグストアなどで入手できます。
夏は、冷房の効いた室内にいたいものですが、ここで注意したいのは冷房の効き過ぎです。涼しい室内で長時間過ごしていると、汗腺が開きにくくなり、急に暑い屋外に出たときに汗をかくことができなくなり、体に熱をため込んでしまうもとになります。
発汗機能が正常に働くように、運動や入浴で適度に汗をかく習慣も必要。夏だというのに、汗をかきにくい体になっていないか、生活習慣をふり返ってみてください。
体内にこもる熱と、汗で蒸発している熱の収支のバランスが崩れると、体に悪影響が現れ始めます。そこで環境省では、この熱収支を大きく左右する湿度・輻射熱・気温の3つを取り入れた指標を「暑さ指数」として発表しています。また、全国の今日と明日の予測値を5段階で公開。「暑さ指数」の高い日は、熱中症にくれぐれも用心を!
アルコールやカフェイン飲料には利尿作用があります。特にビールはのどの渇きを一時的にいやし、のどごしがよいため、飲む量も多くなりがち。脱水の解消に役立つと思いがちですが、実はその逆です。利尿作用によって、さらに脱水が進みます。飲み過ぎには注意しましょう。
日本医科大学卒業。同大学付属第一病院神経科、同大学東洋医学センター顧問を経て現職。特別養護老人ホーム「センチュリー21」「小郡・山手一番館」の理事長も務める。著書に『名医の図解 うつがよくなる生活読本』(主婦と生活社)などがある。