監修:東邦大学医学部教授  医学博士
有田 秀穂 (ありた ひでほ)

1973年東京大学医学部卒業。東海大学医学部内科で臨床の基礎研究に従事。 1980年ニューヨーク州立大学に留学後、筑波大学基礎医学系講師、 東邦大学医学部助教授を経て現職に。著書に『セロトニン脳トレーニング』(MCプレス)、 『脳からストレスを消す技術』(サンマーク出版)ほか多数。

脳内のセロトニンが重要!

先が見えにくい、この時代。不安や緊張、ストレスなどを持続的に感じていると、脳内の神経伝達物質のバランスが崩れてきます。 中でも「セロトニン」の分泌が減少してくると、うつ病にかかりやすくなるのは、ご存じの通り。 こんな時代につぶされない心を保つためには「セロトニン」の分泌能力を高めておくことが大切。 その秘けつをご紹介します!

脳内で心のアップダウンを司る
  3つの情報伝達物質

セロトニンは脳内のセロトニン神経と呼ばれる神経細胞から分泌されています。

一定量が規則正しく出ることで、同じ脳内の情報伝達物質である ドーパミンやノルアドレナリンが過剰に働かないようにコントロールし、 「平常心」を維持。いわば”脳内の指揮者”のような働きをしています。

 
心と体の元気のもと セロトニン

セロトニンは脳内の情報伝達物質の一つで、精神を安定させたり集中力を高めたり、また体調を整えたりと、 主に心と体のバランスを調整する役割を担っています。

眠っている間は働きませんが、目覚めとともにつくられ始めます。特に太陽の光を感じると多く分泌され、体がスムーズに動き出せるよう、 自律神経にも働きかけ、副交感神経優位から交感神経優位に切り替えてくれます。 またセロトニンには、姿勢を維持したり、体の痛みを抑えたりする働きもあります。 きちんと分泌されていれば、体は健康で若々しく、心にはゆとりがうまれます。 しかし、不足してしまうと、さまざまな弊害が現れてきます(右表)。

いちばんの敵は ストレス

セロトニンが不足するいちばんの原因は精神的ストレスです。 では、常に大小のストレスをもって暮らす私たちはどう対応すればよいのでしょう。 答えは、「ストレスに勝とうとしない」こと。そして「上手に受け流せる体質をつくる」ことです。

下の図を見てください。 セロトニンを分泌しているセロトニン神経は、朝から夜に向かって少しずつ機能を低下させてしまいます。 ストレスから逃れられない人間にとって、それは仕方がないことです。だからこそ、セロトニン神経の働きを日常的に鍛えて、 生活の中で下がってしまう分をリカバリーするとともに、少々のストレスでは凹(へこ)みにくい心のコンディションをつくる工夫が必要。 そのために誰にでもできる効果的な方法が「リズム運動」です。

朝日浴とリズム運動の習慣でセロトニンの働きを活性化

リズム運動は毎日行うことが重要。3カ月続ければ、セロトニンの初期値が上がり、ストレス耐性の強い体質になります。

呼吸・歩行・咀しゃくも 立派なトレーニング

リズム運動というのは、筋肉の収縮と弛緩(しかん)を周期的に繰り返す運動で、激しい動きは必要ありません。 実は無意識に行っている呼吸や歩行、物をかむことも、立派なリズム運動です。 一定のリズムを意識し、集中して行えば、5〜30分でもセロトニンの分泌量が増えることがわかっています。 大切なのは、短時間でも毎日続けて行うことです。

また、朝起きたらすぐに太陽の光を浴びることも、セロトニン神経の働きを高めるもう一つの秘けつ。次項で紹介するリズム運動とともに、毎朝の習慣にしましょう。

通勤時間や休憩時間などに、ガムをかむのも効果的

咀しゃくの繰り返しは、有効なリズム運動。 実際にガムをかんだときのセロトニンの量を計測すると、かみ始めてから5分で増え始め、 20分かんだ直後も30分後まで増え続けました。ガムはかための物をしっかりと強めにかむのがポイントです。

メジャーリーガーたちが試合中にガムをよくかむのは、 それによって集中力が高まり、適度にリラックスできることを知っているからです。


「泣く」は「笑う」より有効なストレス解消法

ストレスはためないことが何より大切。セロトニンの活性化は、ストレス耐性を高めるいわば入口の機能。 そして、たまったストレスを吐き出す出口の機能が涙です。 特に何かに感動して泣くことは、笑う以上に有効なストレス解消法。 たまには週末などに泣ける映画やドラマで泣き、1週間分のストレスを洗い流してみてはいかがでしょう。

毎日続けることで心のバネが強くなる

リズム運動は、心身の調子がよくなっても、そこで終わりにするのではなく、生活の一部として続けていくことが大切。 そのためには、毎日楽しみながら続けられるものを生活に取り入れたいものです。

例えば、音楽に乗って体を動かすダンスは、まさに最適なリズム運動です。また、リズムを意識して歩くウォーキングやスクワット、水泳などもおすすめ。 坐禅(ざぜん)やヨガ、太極拳、読経(どきょう)なども、腹式呼吸とリズムを意識して行うものなので、大変有効なトレーニングになります。

意外なところでは、カラオケや、ゲームセンターにある太鼓などのリズムアクションゲーム、電動チェアの乗馬運動も、楽しくできるリズム運動といえるでしょう。

時間は5〜30分で十分ですが、ぜひ心掛けたいのは、ただ漫然と行うのではなく、集中して行うということ。 そうすれば、セロトニンの分泌量が増えることがわかっています。まずは3カ月、自分の生活に合ったリズム運動を毎日続けてみてください。 それまでより心が落ち着き、疲れにくくなったことを実感できるはずです。

いつでもどこでもできる「腹筋呼吸法」

ふだん何気なく行っている呼吸も、腹筋の収縮を意識して行えば、より効果的なリズム運動になります。 ポイントは「まず息を十分に吐くこと」。しっかり吐き切れば、自然に空気が入ってきます。 坐禅やヨガなどでも用いられる呼吸法で、どんな体勢でも行えます。

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