• 田中淳子
  • トレノケート株式会社 人材教育コンサルタント/
    産業カウンセラー/国家資格キャリアコンサルタント

Profile|たなか じゅんこ●1986年日本DEC入社。IT技術教育に従事した後、コミュニケーションなどビジネススキル教育を手掛けるようになる。1996年から現職。著書に『現場で実践!若手を育てる47のテクニック』(日経BP社)、『ITエンジニアとして生き残るための「対人力」の高め方』(共著、日経BP社)など。ブログ「田中淳子の”大人の学び”支援隊!」も好評更新中。

12月 とにかく前に進め

50代になったばかりの頃、年間1,000km歩くという目標を達成するほど、ウオーキングにはまっていました。1日に10kmを数時間かけて歩いていると、周囲から「走れば」と言われるようになりましたが、20代までぜんそくもちだったこともあり、走るのには抵抗がありました。しかし、少しずつ走ってみるようにもなり、そうこうするうちに、「一度レースに出てみれば」という悪魔のささやきが。
「いざとなったら途中でリタイアすればいいんだから」というベテランランナーからのアドバイスもあり、気楽に初レースに臨みました。

ハーフマラソン21.0975km。一度に歩いたことすらない距離です。開始5分で後悔しました。最後列からスタートしているのに、どんどん抜かれていく。しかも、走っても走っても1kmにも到達しない。リタイアしようにもその方法も分からず、ひたすら前に足を運びます。時々は歩き、時々は走るを繰り返し、2時間半以上かかってなんとかゴールにたどり着きました。

ゴール直後、へたり込んでいたら、近くにいた同年配の男性と目が合いました。

「初めてですか? マラソンの秘訣って何だか知ってます? 僕ね、友達にアドバイスを受けてきたんです」

「何ですか?」

「とにかく前に進め。止まったらゴールには一歩も近づけない」

とにかく前に進め――。この言葉は、その後の私の指針の一つになりました。

「ああすればよいのにな」と組織や他者に思うことがあります。自分のことでも「あれができたら」と考えることもあります。でも、じっとその場にとどまっていては、自分を取り巻く世界は何も変わらない。「とにかく前に進め。前に進めば、どこかにはたどり着く」そう考えるようになりました。

ラソンは、その後5回ほどレースに出たもののやめてしまいました。50歳を過ぎてから体験したマラソンは、苦手意識に加え、初めての挑戦だったにもかかわらず、無事ゴールできたことで、「自分にもまだできることがある」という自信につながりました。ただ、ゴール後に見知らぬ男性と交わした言葉の方が、より力強く、今も私の中に刻まれています。