• 田中淳子
  • トレノケート株式会社 人材教育コンサルタント/
    産業カウンセラー/国家資格キャリアコンサルタント

Profile|たなか じゅんこ●1986年日本DEC入社。IT技術教育に従事した後、コミュニケーションなどビジネススキル教育を手掛けるようになる。1996年から現職。著書に『現場で実践!若手を育てる47のテクニック』(日経BP社)、『ITエンジニアとして生き残るための「対人力」の高め方』(共著、日経BP社)など。ブログ「田中淳子の”大人の学び”支援隊!」も好評更新中。

11月 私、困ってます!

ある企業の人事部長がこんな話をなさっていました。
「うちには○○制度はないんですか?」
「そういう制度が必要だと思いますが」
こんなふうに制度の充実を訴える社員が多いが、制度改正というのは、様々に影響するので、簡単にできるものではない。「制度はないのか?」「制度を作ってくれ」という言い方ではなく、「○○に困っているので助けてほしい」と、「自分の抱える課題」を率直に伝えてくれれば、制度を変えることなく、その人の課題を解決するために何らかの支援ができるかもしれないのに――。

この話には学べることがあります。私たちは、「制度はどうなっているんですか?」とか「大手企業なら〇〇の支援ってありますよね」などと、大上段に構えて訴えがちです。しかし、そう言われてすぐに動けるほど、組織は単純なものではありません。

大事なのは、制度の有無ではなく、目の前にある「自分の問題」を何とかすることのはず。まずは、困っていることに対する解決策を話し合えないものだろうか、というわけです。


例えば、「その日は、子供を預かってくれる人がどうしても見つからないので、出張を他の人に担当していただくことはできませんか?」「家族の介護のため、毎週火曜日と金曜日は夜勤のシフトを避けたいのですが、可能ですか?」「資格取得を目指して、土曜日は学校に通っています。3カ月間だけでいいので、土曜日の勤務を外してもらうことは可能でしょうか?」など、「こうだから、こうしたい」と率直に伝えるのです。

私自身も数年前、介護問題に悩んだ際、上司や人事部に「現在、このような状況で非常に困っている。仕事と介護をどう両立させていけばよいか悩んでいる」と話したところ、「こんな方法で切り抜けてはどうか」と様々な方法を提案してもらえ、とても気持ちが楽になったことがあります。制度面ではなく、その時点でできる具体的な方法を一緒に考えてくれたので、何とか乗り越えることができました。


自分の悩みは、誰も察してはくれません。一人で抱え込むのではなく、まずは、「困っている」という実情を誰かに伝えてみることが大事です。一人ひとりの悩みも積み重なれば、いずれは制度の見直しや充実などにつながることもあるはずです。