• 田中淳子
  • トレノケート株式会社 人材教育コンサルタント/
    産業カウンセラー/国家資格キャリアコンサルタント

Profile|たなか じゅんこ●1986年日本DEC入社。IT技術教育に従事した後、コミュニケーションなどビジネススキル教育を手掛けるようになる。1996年から現職。著書に『現場で実践!若手を育てる47のテクニック』(日経BP社)、『ITエンジニアとして生き残るための「対人力」の高め方』(共著、日経BP社)など。ブログ「田中淳子の”大人の学び”支援隊!」も好評更新中。

10月 「どうすればできるか」を考える

“人は、大きなストレスにさらされるような出来事に遭遇したとき、二つの道のどちらかを選ぶ。それは、「闘う」か「逃げる」かだ”と、以前ストレスマネジメントの講座に参加した際、心理学の専門家に言われました。闘うとすれば、その事態に正面から対峙し、困難を乗り越えたり、障壁を取り除いたりする。逃げるとなれば、その状況から離れたり、関わらないようにしたりして、自分の身を守る――、とそんなお話でした。なるほど、自分の経験を振り返ってみても、人生のさまざまな局面において、あるときは闘い、あるときは逃げるという戦略を取ってきたなぁと思います。


逃げた方が賢明だと誰もが思うような場面はありますし、逃げられる状況であれば逃げるのも大事です。ただ、例えば、今までよりレベルの高い仕事が割り当てられたようなとき、「できません」と断ってしまうと二度とチャンスは巡って来ないかもしれません。上司としても、挑戦することで能力をより伸ばしてほしいと期待を持ってくれているわけです。このように、逃げずに立ち向かう必要がある場面も多いはずです。


心理学者キャロル・ドゥエック氏によれば、人には二つの知能観があるといいます。知能観とは、「能力をどのように捉えるか」という考え方のこと。「能力は固定で変化しない」と考えるのが「固定的知能観」です。一方、「拡張的知能観」を持つ人は、「人の能力は努力次第で伸びる」と考えます。困難なこと、まだやったことのない未知の出来事に遭遇した場合、「できるかできないか」をまず考えてしまうのが前者だとすれば、後者は「どうすればできるか」を考えるのです。

難しい仕事や真正面から受け止めなければならない出来事に遭遇したとき、拡張的知能観を持っていれば、「どうすればこの状況に対処できるだろう」という発想で物事を捉えることができます。


仕事でもプライベートでも何かと困難に見舞われるものですが、拡張的知能観の視点に立ってみると、案外自分は多くのリソースを持っていると気付くこともあります。それは家族や友人といった人だったり、情報だったり、公的支援だったり。「こりゃ困った」と思えるようなときでも、「どうすればできるか」と考えられれば、一筋の光明が差してくるかもしれません。