• 田中淳子
  • トレノケート株式会社 人材教育コンサルタント/
    産業カウンセラー/国家資格キャリアコンサルタント

Profile|たなか じゅんこ●1986年日本DEC入社。IT技術教育に従事した後、コミュニケーションなどビジネススキル教育を手掛けるようになる。1996年から現職。著書に『現場で実践!若手を育てる47のテクニック』(日経BP社)、『ITエンジニアとして生き残るための「対人力」の高め方』(共著、日経BP社)など。ブログ「田中淳子の”大人の学び”支援隊!」も好評更新中。

7月 偉大な5文字「ありがとう」

ITシステムの保守や運用(コンピューターシステムがうまく動くように支援する仕事)を担当するエンジニアがこんなことを言っていました。「保守や運用って、トラブル時には怒られたり文句を言われたりするだけで、感謝されることはない。『ありがとう』なんてまず言われない。“動いていて当たり前”だから。これってモチベーションの維持が難しいんですよね」と。

立場は違っても、感謝されないことが何となくつまらないと思うことは誰にでも経験があるのでは。「感謝される」ことは、人を大きく動機付けするものです。


「日頃から感謝していることくらい言わなくてもわかる」と公言する人がいます。一方で、「『ありがとう』と言われて、初めて感謝されていることを知った」という人もいます。前者は、ムードで察してくれ、と思っているのかもしれません。表情や態度や醸し出す空気から、言葉にしなくても気持ちが伝わることはありますが、言葉にしなければ伝わらないことも多々あるはず。もしかしたら、相手は「喜ばれているのだろうか」「自分は役に立っているのだろうか」と不安になっているかもしれません。


買い物をしたとき、「ありがとうございました」と言われたら、私も「ありがとうございました」と反応するようにしています。「どういたしまして」も変だし、無言で立ち去るのもなぁと思い、いつしか「ありがとうございます」と言うようになりました。言葉を交わすことで、買い物という行為の区切りがつくような気もします。

バスやタクシーを降りるときにも「ありがとうございました」。たったそれだけですが、何となく自分も気分がよくなるから不思議です。

人は、関わった誰かの役に立っている、誰かに感謝されていると感じたときに、自己効力感が増したり、自信を持てたりもするものです。「ありがとう」というたった5文字は、だからこそ偉大なのです。


小さな子供が手にしたものを「どうぞ」と渡してくれる時期があります。それに対して「ありがとう」と言うと、笑顔が返ってきます。「誰かに喜んでもらえるとうれしい」という感覚は、周囲とうまくやっていくために必要なものとして、あらかじめ人間に組み込まれているのかもしれません。