• 田中淳子
  • トレノケート株式会社 人材教育コンサルタント/
    産業カウンセラー/国家資格キャリアコンサルタント

Profile|たなか じゅんこ●1986年日本DEC入社。IT技術教育に従事した後、コミュニケーションなどビジネススキル教育を手掛けるようになる。1996年から現職。著書に『現場で実践!若手を育てる47のテクニック』(日経BP社)、『ITエンジニアとして生き残るための「対人力」の高め方』(共著、日経BP社)など。ブログ「田中淳子の”大人の学び”支援隊!」も好評更新中。

3月 他者の成長に付き合う

甥が3歳くらいの頃、電車のレールをつないで遊ぶのを眺めていたときのこと。凹凸をうまくかみ合わせられず苦労している様子に、つい手を出したくなるのをぐっと我慢しました。「彼は今、試行錯誤しているのだ」と思い、見守ることにしたのです。やがて、偶然にカチッとレール同士がはまりました。何度も凸同士、凹同士をつなごうとしながらも、次第にはめられる確率も高くなってきます。そして、そのうれしそうなこと!


育成というと、「教える」ことばかりに目が向きがちです。でも、教えることだけが人の成長につながるとは限りません。自分で試行錯誤し、やがて発見する。これはしてはいけない、こういう理由でこれをする必要があるといった法則を見いだす。親や上司、先輩ができるのは、それを見守り、「それでOK!」と承認するのみ、という場面も多々あるはずです。

時々、「私は誰にも何も教えてもらったことはない」と豪語する人がいます。でも、無形の支援はあったはずです。多少の失敗は、「新人だから」と大目に見てくれた。これだって、成長支援の一つの在り方です。


私は、4〜6月くらいの街の中が好きです。例えば、新幹線の切符売り場に新人らしき人が座り、斜め後ろに先輩が腰掛けて、いろいろ教えている場面を見ることがあります。そういう窓口では、通常の1.5倍くらい時間がかかることがあります。それでも、あえてそこに並び、心の中で応援しながらその場に立ち合います。デパートでは、「見習い」バッジを付けた店員さんが何度も包装し直す場面に遭遇することも。ちょっとニタニタしながら見守ります。

新人の頃、ダメダメだった私が仕事を続けることができたのは、上司や先輩だけでなく、試行錯誤の場に付き合ってくれた数多くの名もなき他者の存在があったから。

成熟した社会を守り続けるためには、おのおのの成長が不可欠です。そして、ほんの少しでも誰かの成長を支え、学びの場面に付き合うのは、社会の一人ひとりの役目だと思うのです。