有酸素運動が脳の機能低下を防ぐ
人の名前がすぐに出てこなかったり、物の置き場所を忘れたりすることが多くなると、「ボケてきたかな?」と思うものです。これは加齢とともに起こる「もの忘れ」ですが、このような通常の加齢現象と比べて急激に脳の神経細胞が消失してしまう病気が「認知症」です。原因はさまざまですが、特に多いのが、脳が萎縮して知能低下が起こるアルツハイマー型と、脳の血管障害によるものです。
認知症には次の3つの能力が低下するサインがあります。
- エピソード記憶…ちょっと前に体験したことを記憶する能力
- 注意分割…複数のことを同時に行うとき気を配る能力
- 計画力(思考力)…物事の手順を考える能力

そこで、認知症を予防するには上記の3つの能力を日頃から鍛えておくことが大切です。
「エピソード記憶」の低下を防ぐには、記憶や学習を司る脳の海馬の機能を鍛えることが、「注意分割」と「計画力」の低下を防ぐには脳の前頭葉の機能を鍛えることが大事。
とはいえ、具体的には何をすればいいのでしょうか。その答えが、散歩やウォーキングといった有酸素運動です。有酸素運動を習慣化すると、海馬や前頭葉の血流と代謝がよくなり働きが活発になるため「記憶力」と「注意力」が向上します。そして、脳の神経細胞を活性化する物質が増え、情報を処理する機能が高まります。
実際によく歩く人は、運動習慣がない人に比べ、アルツハイマー型の認知症の危険度がかなり低くなることがわかっています(右グラフ)。
さらにウォーキングは、セロトニンという脳内ホルモンの働きを活性化させて、心身のバランスも整えてくれます。もちろん、足腰が丈夫になり転倒防止にも役立ちます。特に朝日を浴びて歩くと効果が高いので、明日から、毎日午前中に10分以上は速歩をする習慣をつけましょう。
糖尿病の人は特にご用心!
糖尿病の人は動脈硬化が進みやすいため、脳の血管障害による認知症を招く危険性が高くなります。また、内臓脂肪から分泌された、インスリンの働きを妨げる物質が、脳の細胞の酸化と関係していることもわかってきました。つまり、糖尿病の人は、認知症のリスクが二重にも三重にも高まりやすいということ。糖尿病といえば、腎症、網膜症、末梢神経障害の3大合併症の危険が指摘されていますが、脳の健康のためにも日頃の予防がいっそう重要です。