臨床心理士、心理学博士 関屋 裕希せきや ゆき
東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野客員研究員。早稲田大学第一文学部心理学専修卒業、筑波大学大学院人間総合科学研究科発達臨床心理学分野博士課程修了後、2012年より現所属にて特任研究員として勤務。専門は産業精神保健(職場のメンタルヘルス)。業種や企業規模を問わず、ストレスマネジメントに関する講演、コンサルティング他、執筆活動を行っている。
何かを「あきらめる」と言うと、どんなイメージがありますか?私はというと、どこか後ろめたい気持ちになることがあります。「自分の頑張りが足りないんじゃないか」「もうちょっと踏ん張るべきなんじゃないか」こんな考えが頭をよぎるのです。粘り強く努力を続けることが美徳とされる場合も多く、何だか逃げているようで、あきらめることへのハードルは高くなりがちです。
心理学の研究でも、「あきらめる」ことは、自責感を抱えることにつながり、落ち込みを強めるため心身の健康に良くない、などのネガティブな効果が指摘されています。こうなるとますます「ほらもっと頑張って!もっと耐えて」と追い詰められるような気分になりますが、ネガティブな面がある一方で、実はポジティブな効果があるとする研究結果もあります。
ポジティブな効果に注目した研究では、「あきらめる」ことを「割り切る」と呼んでいます。どうでしょう、「割り切る」と捉えなおすと、少し見え方が変わってきませんか。「あきらめちゃダメだ」と頑張っていても思うような成果が出せず、心身ばかりが疲弊していくようなとき、その現実を受け入れて前に進む決断をした方がいいこともあります。割り切ることで、エネルギーが湧いてきたり、問題への見え方が変わって思わぬ解決策が浮かんだりすることだってあるのです。
そう簡単に割り切るなんてできないという方がいるかもしれませんが、研究の結果、上手に「あきらめる(割り切る)」コツは、新たな目標をたてることだということが明らかになっています。もともと目指していたゴールを手放す代わりに、別の新しい目標を決めるのです。そうすることで、そこに至るまでに必要とされるものは何なのか、自分の能力や労力としっかり向き合い、次の目標に向かって前向きに歩むことができます。
もんもんと考えて動けなくなったときには、「よし、割り切ってみよう!」と一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。あきらめたからこそ、開ける道もありますよ。
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