臨床心理士、心理学博士 関屋 裕希せきや ゆき
東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野客員研究員。早稲田大学第一文学部心理学専修卒業、筑波大学大学院人間総合科学研究科発達臨床心理学分野博士課程修了後、2012年より現所属にて特任研究員として勤務。専門は産業精神保健(職場のメンタルヘルス)。業種や企業規模を問わず、ストレスマネジメントに関する講演、コンサルティング他、執筆活動を行っている。
東日本大震災のあと、小さな子どものいるお母さんたちを対象に研究をしたことがあります。うつ(落ち込み)を予防するための心理プログラムの効果を見る研究だったのですが、落ち込み以上にたくさん質問が出たのが「怒り」についてでした。多くのお母さんが、「子どもにイライラして、つい怒鳴ってしまう」、「怒りが抑えられなくなって、そんな自分が嫌になる」と悩んでいたのです。
怒りを感じたときの対処法が分からない、カッとなったあと自己嫌悪に陥るなど、「怒り」というのはあらゆる面で難しい感情です。大学院の5年間、「怒り」をテーマに研究をした私にとってもそう。ただ、研究したからこそ、「怒りはスバラシイ!」と言うこともできます。
怒りの素晴らしさの秘密は、私たちがどんなときに怒りを感じるのかにあります。それは、「大事なものが傷つけられたとき」。皆さんが最近怒りを感じた場面をいくつか振り返ってみてください。
自分の企画にダメ出しばかりされたとき。
自分の子どもが危ないことをしようとしているとき。
仕事で大事にしている価値観を誰かに否定されたとき。
怒りを感じたときに身体にぐっと力がみなぎるのは、大事なものを守るためのエネルギーを怒りがもたらしてくれるから。言ってみれば、怒りは「私たちの大事なものを守ってくれる」感情なのです。なので、怒りの裏側には、私たちの大事なものが隠れています。これからは、「イライラしてしまう自分が嫌!」と思う代わりに、こう自分に問いかけてみてください。「今、傷つけられているのは何だろう?」そうすることで、普段は意識していなかった、自分にとっての大事なものが見えてきます。
私はこの企画を大事にしていて、
やり遂げたいという思いが強いのかも。
「子ども」を大事に思うからこその怒りなんだ。
あぁ、自分は仕事で「人を喜ばせたい」という
価値観を大事にしているんだなぁ。
怒りは、自分にとって何が大事なのかを教えてくれる感情でもあります。怒りを感じたときは、それを自分にとってのお宝を発見するきっかけにしてみてください。そして、怒りを我慢したり、相手にそのままぶつけたりせず、「私にとって〇〇が大事です!」と相手や周りに伝えること。それこそが最も理にかなった怒りの対処法なのです。
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