臨床心理士、心理学博士 関屋 裕希せきや ゆき
東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野客員研究員。早稲田大学第一文学部心理学専修卒業、筑波大学大学院人間総合科学研究科発達臨床心理学分野博士課程修了後、2012年より現所属にて特任研究員として勤務。専門は産業精神保健(職場のメンタルヘルス)。業種や企業規模を問わず、ストレスマネジメントに関する講演、コンサルティング他、執筆活動を行っている。
「マインドフルネス」という言葉を聞いたことはありますか? マインドフルネスは、最近注目されているストレス低減法の一つで、過去の失敗や未来への不安に心がとらわれたときに、「今」に注意を向けることで気持ちを落ち着かせる方法です。
マインドフルネスの実践にはまず、呼吸に注意を向けるワークからチャレンジするのがおすすめ。呼吸は、私たちが絶え間なくしている身体活動なので、呼吸に注目すると、自然と「今」に注意を向けることができます。呼吸の仕方に決まりはないので、その時々の自分の自然な呼吸に注目しましょう。そして、鼻を通る空気の温かさ・冷たさ、自分の身体の中にどんなふうに空気が入り出ていくのかなどを観察します。観察が難しいという方は、お腹に手をあてて、膨らんだりへこんだりするお腹の動きに注目することから始めてみてもよいでしょう。後悔や不安などで心が揺れ動いたときも、このワークを3分くらい続ければ、穏やかな気持ちになっていくのを感じられるはずです。
このマインドフルネスはメンタルヘルス不調の予防などに役立つとされ、そのメカニズムの科学的な解説もありますが、個人的には「ないものよりも、今あるものに目を向ける」ことによる効果もあるのでは、と思っています。
私たちは、自分がすでに持っている「今あるもの」よりも、自分に足りないものや誰かが持っているものに目を向けがちで、こうしたクセが後悔や未来への不安を引き起こします。そんな自分に気付いたときに、マインドフルネスで自分の呼吸や身体の感覚に注意を向ければ、「いつも通り呼吸をしていられる」ことや、手に触れた物の感触、聞こえてくる外界の音、目に映る鮮やかな世界などの、自分を取り巻く「今」に幸せを感じることができます。
「ないもの」より「今あるもの」に、「できないこと」より「できること」に、どこに目を向けるかということも、マインドフルネスを有効にする秘訣になりそうですね。
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