こくほ随想

第8回 
新しいセルフケアの必要性

10月初めに新型コロナウイルスに感染しました。熱は37℃台、呼吸器症状も軽めで、嗅覚・味覚異常もなく、幸い、数日で軽快しました。ただ、その後も3週間くらい咳と嗄声が続き、軽症の私でさえしばらく症状があったのだから、症状の重かった人は、さぞ大変なのだろうと思いました。

私の場合、発熱してすぐに、購入していた抗原検査キットを用いて陽性を確認しました。その後、解熱剤を3日間、時々風邪薬を飲んで自宅で療養し、回復しました。

ところで、私は週に半日、内科外来で診察を行っています。今も発熱の患者がかなり多く、特に9月あたりは、これまでで一番陽性率が高い状況でした。ご存じの方も多いでしょうが、最近とても困っているのは、薬の不足です。地域や医療機関、あるいは薬局によって状況は異なりますが、特に、咳止めが不足しています。コロナとインフルエンザが陰性で、普通の風邪(感冒や急性上気道炎)と診断しても、特に咳を主な症状とする人には処方する薬がありません。コロナ陽性でも、通常の対症療法で軽快することがほとんどなのですが、そのための薬が不足しています。

一方、街のドラッグストアに行ってみると、咳止めがOTC医薬品(処方箋なしで購入できる医薬品)として売られています。ですので、患者さんには、調剤薬局にはないので、ドラッグストアに行って購入するとよいと話をします。なんともおかしな状況です。風邪薬などは、ドラッグストアの薬も調剤薬局の薬も効能はそんなに変わらないのですが、どうしても処方してほしい人もいて、説明と対応に苦労します。

また、コロナやインフルエンザの検査キットは、薬局で購入できます。私のように、自宅でも検査をして、両方陰性またはコロナ陽性で軽症の場合、市販の薬を内服しながら自宅で療養すれば、通常は軽快します。ただし、高齢者や基礎疾患のあるハイリスク者や症状の増悪があれば早めの受診が必要です。インフルエンザ陽性の場合、医療機関で抗インフルエンザ薬を処方してもらうことになります。まずは自宅での検査が大切なのです。

検査キットやOTC医薬品は患者さんの支払いは高いかもしれませんが、医療保険や社会全体としてのコストは必ずしも高くはありません。医療機関を受診して、医師の診断を受けたほうが安心で安全ですが、多少のリスクを認めたうえで、効率や費用を考えないといけない時代です。医療費適正化には、医療従事者も患者さんもみんなで努力し合わねばなりません。

さて、医師の働き方改革が来年4月から本格的に始まります。医療機関にとってはとても深刻な問題です。医師の労働時間を減らすには、看護師等へのタスクシフトの推進、業務の効率化などがありますが、不必要な受診などの需要を減らすことも必要です。医療費適正化の中で、「患者が多い」→「医療費が増えるので、国は一人当たりの診療報酬を下げる」→「現場は患者を多く診ないといけない」→「患者を増やす」という悪循環があります。この悪循環を断つためにもセルフケアの推進が必要です。

その昔、血圧は自宅で測定することを推奨したのは、あの日野原重明先生です。血圧は医療機関で測定するという常識を変え、今では、当たり前のセルフケアになっています。時代が進み、技術は進歩し、一般の方の健康や医療に関するリテラシーも向上してきました。それに合わせて、セルフケアもさらに進められるはずです。

では、セルフケアを進めるためには、何が必要なのでしょうか。医療や病気等に関する知識をうまく情報提供すること、特に重要で具体的な対処行動をしっかりと普及啓発することが大切です。保険者は被保険者に対して、そうした情報提供や啓発活動に積極的に取り組んでもらいたいと思います。

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

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