“カルテ”で市町村を採点してみたら

1986年に男女ともに平均寿命世界一位を達成した日本は、世界から“人生100年時代”のお手本として期待されている。私たちの研究ユニットにも、長寿国・日本でその理由を探りたいという海外の若手研究者からのオファーが来る。

わが国では、国民の健康度を向上させるという共通の課題に対して、全国一律の施策が実施されてきた。これにより、乳幼児死亡率の低下や平均寿命の延伸といった各種健康指標の向上が図られたことは言うまでもない。しかし、生活の質の向上を目指し、健康寿命の延伸にチャレンジしていく時代には、多様な健康課題に応じた取組を追求することが必要となる。つまり、事業ありきではなく、住民のために何を目指すべきか、事業の中身に価値が置かれる時代なのだ。

ただ、長年にわたって事業を「実施すること」に重きを置いてきた市町村が、地域の健康課題を「解決すること」に転換するのは容易ではない。ある県の国民健康保険団体連合会の皆さんと一緒に、この10年間、市町村の取組を支援する中で、そんな問題意識が私の中に高まっていた。

■顕在化した強みと弱み

そこで今春、私たちの研究ユニットでは、保健事業の中身を整理する“カルテ”を試作した。これは、市町村の皆さんが、住民のためにどのような取組を実施していて、その取組の結果はどうだったのか、どのような方法や体制に改善すればもっと効果が上がるのかを構造化するツール。“カルテ”で分析する要素は、各市町村が解決しようとしている健康課題、その解決策として実施する保健事業の方法・体制、実施した効果を測るために設定した評価指標だ。

すると、それぞれの保健事業の強みと弱みが見えてきた。たとえば、働き盛り世代のメタボリックシンドロームを改善する事業なのに、平日の昼間に開催しているために参加率が上がっていないという実施方法の課題。また、糖尿病の重症化を予防する事業なのに、かかりつけ医と連携していないために血糖値が改善したかどうかを評価できないといった体制面での課題。評価指標や目標値が設定されていないために事業効果を測定できず、改善すべき点を検討できないなどという事業も少なくなかった。

一方、保健事業の実行性を上げる工夫も可視化された。若年層向けの健診事業で、児童館や乳幼児健診会場といった対象者の日常生活の動線にポスターを掲示してアプローチをしたり、集団健診の場でサルコペニア予防を周知することで介護予防事業とのつながりを持たせるといった取組だ。評価指標に関しても、健康課題の解決度を測る中長期的な指標だけでなく、短期的に測定が可能な指標を設定することで、事業のスピーディーな見直しにつなげていた事例があった。たとえば、対象者の翌年度の検査値の改善に加え、介入前後の健康意識や体重の変化などを指標とすることで、プログラムの内容や専門職が働きかけるタイミングを手直ししやすくするといった工夫である。

■住民への寄り添い方が見えてくる

このように、“カルテ”で事業の中身を整理すると、これまでは「実施すること」ばかりに目が向きがちだった保健事業の特徴や過不足に気づき、地域の健康課題を「解決すること」について考えるきっかけになる。

また、今回、私たちの研究ユニットの15人のメンバーがこの“カルテ”を分析したことで、1人では見つけにくいポイントに気づいたり、様々なアイディアが生まれるという副産物もあった。市町村でも担当者だけでなく、連携する庁内の他部署や地域の関係機関と一緒に、同じカルテ≠使って保健事業の中身に向き合うことで、同じ問題意識を持ちながら課題の解決策を生み出すことが期待される。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

 

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