国保の保健事業と保険者努力支援制度

異動してきた市区町村保険者の担当者は、特定健康診査など保健事業の実施状況について、全国における位置や県内での位置を知り愕然とする場合がある。特定健康診査の受診率は市区町村や県比較で大きな差がみられる。なぜこんなに大きな差があるのだろうか。

保健事業(特定健康診査など)が医療保険者である市区町村に義務付けられる前は、老人保健事業として実施されていた。老人保健事業は詳細な実施要項が国で定められていた。当初、比較的簡素な健(検)診を中心とする仕組みでスタートし、後に様々な保健事業が追加された。現在の市区町村保健センターも老人保健事業に伴って設置された。老人保健事業の特徴は、国と県が3分の2、市区町村が3分の1の費用を負担して行うこと、被用者保険の保健事業の対象者ではない住民すべてを対象とすることであった。

老人保健事業は国民すべてに健(検)診の機会を提供する画期的な制度であったが、その後期には項目の拡大により業務の負担感が大きく増し、健(検)診など費用の掛かる保健事業に力を入れない自治体が多くみられた。国の方針が一定せず、揺り戻しを警戒して新規事業は実施を遅らせることが良い知恵だと考えられ、列の最後に位置することが最も効率的だと受け止められた。また、受診率が上がると自治体の財政負担が増えるため、受診率は低いほうが良いと考える市区町村もみられた。現在の受診率の地域差には、こうした取り組みの歴史が反映されている。現在受診率の高い保険者の多くは以前から受診率が高く、逆も真であることが多い。

しかし、平成20年度からは保険者の保健事業が導入され、受診率向上が大きな課題として取り上げられるようになった。平成30年度から保険者努力支援制度の本格運用が行われ、保険者の行う保健事業の質と量が評価され、それが補助金に反映される時代に突入する。今までは「どうせ無理」であった健診受診率の向上について、議会などから指摘を受ける機会が増え、市区町村を挙げた対策実施が待ったなしの時代になってきた。それでも受診率は行政の行う保健事業に対する加入者からの総合評価であり、受診率を簡単に上げることは困難なことが分かってきた。

この中で特定健康診査の受診率は最も大きな課題である。受診率は格差も大きいが、県単位でみると、より特徴的である。全体的に受診率が低い県には、飛び抜けて高い自治体があることはまれである。受診率向上の取り組みは、近隣の自治体の取り組みを参考にして行う場合が多かったようであり、受診率の低い県では逆にこれが災いして、優良な取り組みの実態を把握する機会がないのが実情である。保険者努力支援制度は全国の市区町村間の競争であり、受診率向上の具体的な手法を身に着けるには、視野を広くとり、県下の優良な事例を分析するだけではなく、受診率向上に実績を上げている他県の保険者の情報を収集して分析するべきである。国保連合会や県はこうした取り組みを積極的に行って、保険者の実績向上を支援していただきたい。

データヘルス計画も、大部分の市区町村では平成30年度から新しい計画に移行する。第1期データヘルス計画では、データの分析など計画書そのものの作成に重点が置かれていた。詳細に記述することで、逆に活動に制限がおこると懸念する保険者が多くみられた。第2期計画では、保健事業の目標設定値をより現実的なものにするとともに、必達目標として実施計画を詳細に作り上げることが求められている。計画の目標値と実際の施策との整合性が問われるようになった。

今後はデータヘルス計画に記載された目標値を達成するために、どんな事業をどのように改善し、実績を上げていくかが課題となっている。各保険者の積極的な取り組みとともに、支援に当たる関係者が支援方法の改善に取り組むことを期待したい。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

 

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