こくほ随想

国民会議と医療・国保制度改革

来年の医療提供体制と国保制度の改革の施行に向けて、静かに準備が進んでいる。与野党が対決し、喧騒と混乱のなかで発足した後期高齢者医療制度との大きな違いである。

この静かな大改革を推進する上で決定的な役割を果たしたのは、斬新でかつ現実的な改革の方向性を示した社会保障制度改革国民会議の報告書である。

国民会議は、社会保障・税一体改革の過程で、平成24年6月の歴史的な三党合意による社会保障制度改革推進法に基づき、民主党政権下の平成24年11月に発足し、翌月の総選挙による政権交代後、翌年の8月に報告書を取りまとめた。社会保障制度改革推進法、医療介護総合確保推進法、国民健康保険法等の改正法は、いずれもこの報告書の提言に従ったものである。

会長の清家篤・慶応義塾長をはじめ15名の委員は、民主・自民・公明の三党の推薦により選任され、全員が学識者で構成された。会議では議論が紛糾する場面もあったが、清家会長の強いリーダーシップのもとで、報告書は委員の全員一致でまとめられた。事務局は内閣官房の社会保障制度改革担当室で、関係する厚労省・財務省・総務省等も会議をしっかりサポートした。「三党合意」「全員一致」「霞が関のサポート」—これが国民会議とその報告書の「権威」を高め、その後の法改正の推進力になった。

衆議院の小選挙区制の下では政権交代は容易に起こり、参議院が野党多数の「ねじれ国会」になれば、国政の円滑な推進の大きな障害になる。しかも社会保障予算が一般歳出の5割を超える大きな比重を占めるなかで、社会保障を政争の具にすることは避けたい。その願いが「三党合意」になり、改革の基本的な考え方や基本方針を定めた社会保障制度改革推進法の制定に結実し、霞が関の官僚もこの与野党協調体制を歓迎した。

「政権・政党が独自性を競い合うよりは、実現可能性を競い合うフェーズに入ってきているのではないか」—これは国民会議での宮本太郎委員の発言である。私にも政治が成熟段階に入ってきたように思えた。

報告書は、「高齢者中心から全世代で支え合う全世代型社会保障の構築」、「年齢別から負担能力に応じた負担への転換」、「地域づくりとしての医療・介護・福祉・子ども子育て支援」、そして最重点の課題として、「地域包括ケアの実現を目指した医療・介護サービスの一体的改革と国保制度の改革」を掲げた。

医療・介護サービスの改革では、医療提供体制の改革に最重点を置き、「病院完結型から地域完結型へ」、「治す医療から、治し支える医療へ」の転換を強く求めた。しかし、ヨーロッパ諸国と違って、民間医療機関中心のわが国では、強権的な手法は採り得ない。

国民会議報告書が示した新機軸は「データによる制御機構による医療ニーズと提供体制のマッチングを図るシステムの確立」。データを踏まえた関係者の自主的な協議による地域医療構想の策定と、消費税増収分を活用した財政支援により、病床の機能分化・連携等を推進する。協議だけでは進まない場合、知事が一定の権限を行使することができるが、極めて限定的な権限にとどまる。

国保制度の改革では、有力視されていた都道府県単一保険者論をしりぞけ、「都道府県の役割強化と国保の財政運営の責任を担う主体を都道府県としつつ、国保の運営に関する業務について都道府県と市町村が適切に役割分担を行う分権的な仕組み」を提言した。

新制度は都道府県と市町村の共同保険者。保険料(税)の決定・徴収、給付の決定など保険者機能の基本的部分を市町村が継承した上、新たに都道府県が財政運営の責任主体として広域的な観点から調整の役割を担う。国保制度にとどまらず、保健・医療・福祉における両者の関係が新たなステージに入ったように思う。

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

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