こくほ随想

地域包括ケアシステムの担い手とは

これからの日本の医療・介護等のサービス提供体制の構築にあたっては、第一に、「地域別の(地域の特性にあった)」(=community-based)の需給予測がなされた、第二に、「医療と介護サービスの一体的な提供」(=integrated care)という両方の条件を満たすことが求められている。この新たな体制の名称として用いられているのが「地域包括ケアシステム」である。

現時点では、このシステムにおけるcommunity-based careの中核として、厚生労働省が想定しているのは自治体である。これは地域包括ケアシステムというコンセプトが介護保険制度改革の中で示されたためであるが、基本的には、この介護保険制度の保険者は市区町村ということから考えれば当然といえる。

ただ、日本の地域包括ケアシステムのコンセプトのもうひとつは、integrated careという医療と介護サービスとの統合であるという観点からは、市区町村には、いささか荷が重いといわざるをえない。なぜなら、市区町村は、これまで医療機関との連携経験を持っていないからである。

このため、国は自治体のマネジメント力を補うために、地域の医師会、医療機関等の経営者、婦人会、商店街、NPO団体等、地域に存在するあらゆる社会資源を使い、各団体への働きかけを求めているところである。

だが、基本的には、このcommunity-based careの基盤創りの中心は住民であるべきで、住民がこれに参画し、マネジメントにおいても積極的な態度で応じることが望ましいことはいうまでもない。

すでに、インフォーマルケアの組織化や地域とのつながりを再構築した鹿児島の「やねだん」のような事例があり、住民自身が創りあげるというシステム設計は地域共同体の再構築という側面からも推奨に値する。このため、ここ数年、厚生労働省は、こういった住民参加型の成功事例をベストプラクティスとして示し、自治体を鼓舞してきた。だが、このような事例は、やはり稀有であり、一般化は困難といえよう。

しかし、実態として、自治体の職員のマネジメント能力は低下しているようであり、しかも住民の参画はさらに困難という、いわば当事者なしの自治体において、community-based careの推進を担っているのは、ICT企業とその関連コンサルのようである。

ある大手システム会社は、地域包括ケアシステムに必須となる地域資源の実態把握も、そのシステム構築の推進支援も、さらには多職種連携の関係者の洗い出しや調査、役割分担の明確化というマネジメントさえも請け負っているという。自治体は、これらの企業が作成した基本計画に沿って、地域の合意形成や基本構想策定をも企業にサポートしてもらい、さらには情報連携の運用定義も任せているというのである。これらを称して、「地域包括ケアシステム構築支援コンサルティング」サービスというらしいが、いくつもの自治体が顧客となっているという。企業にとっては、これほど完全な市場調査を自治体からお金を払ってもらって、実施できているともいえる。

こういった自治体がコミュニティに与える機能の弱体化とコミュニティにおいて自治体と住民主体の活動が少なくなるという循環は、今後も進むことが予想される。

戦後、日本国民は市民教育というものをほとんど受けてこなかった。つまり、善き市民となるための、「あなたは、あなたが住む(地域)社会で何ができるかを明確にしなければならない」という自覚や不断の努力によって全体のモラルを維持しなければならないのだという基本的な教育を多くの国民は受けてこなかった。

これを新たに創りあげることもまた、地域包括ケアシステムにおける目標となるともいえるが、これこそ、短期間で達成できない大きな課題である。

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

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