こくほ随想

介護報酬の改定と介護従事者の確保について

年明け早々に、ある会合で介護従事者の確保について「提言」を求められる機会があったので、そこで話したことの概略を記しておきたい。
 政府は、2025年までに医療・介護体制の構築を図るとしているが、それまで10年しかない大事な時期である。これからの高齢化は、大都市部で著しいものがあり、その対策はこれまでとは質的に異ならざるを得ない。大都市部は高コストの地域での介護事業の展開が迫られ、その中で事業基盤を整備していくためには、体力ある事業者の存在が不可欠である。この4月に予定されている介護報酬の改定は、昨年の介護保険法の改正とともに、2025年に向けての重要な一歩であることを忘れてはならない。
 2000年に3.6兆円でスタートした介護保険は、今や10兆円を超える規模となっているが、その約6割が人件費である。まさに介護は「人が人にするサービス」そのものである。介護職員数は、00年55万人から168万人まで増加しているが、政府は25年には、237~249万人の介護職員が必要と推計しており、今後10年間で約70~80万人の新規確保が必要となる。介護について、効率化やイノベーションが必要だと指摘されることが多い。一般企業の「研究開発」に当たるのが、介護分野においては人材の確保とその質の向上であり、そのほかに道はない。
 90年以降、わが国の経済は長期にわたり低迷を続けてきた。この間、雇用の確保は経済政策上の緊要な課題であり、累次の経済対策で医療・介護がこれからの雇用を創出する分野とされてきた。平成26年版の『労働経済の分析』(厚生労働省)によれば、07年から12年にかけて、正規の雇用はおおむねすべての職業で減少している。事務系職種、生産関連職種での減少は大きい。成長分野である「情報処理・通信技術者」において5年間で13.4万人増とのことであるが、この15年間で113万人増加した介護従事者には遠く及ばない状況だ。
 しかし、周知のように介護人材の確保は、困難が続いている。介護の有効求人倍率は、全体が0.9の時に2.04倍と高く、慢性的な人材不足領域である。しかも、全国の有効求人倍率は、13年11月に1.01倍となり6年1か月ぶりに1倍を超えた。景気が回復すると、医療・介護分野の人手不足が深刻になることは、バブル期で経験し、いわば歴史的に証明されている。高齢者介護の一層の充実が求められる中でボトルネックになりかねない。
 しかし、介護分野の年収は「相対的に低い」(『労働経済の分析』)とされており、介護従事者の処遇の改善は緊要な課題である。繰り返すが、介護事業は、人件費の塊であり、処遇改善を図るために、介護報酬改定で目指すべき方向は明らかである。
 社会保障制度改革国民会議報告書(13年8月)は、医療・介護・福祉・子ども子育ては街づくりとして取り組むべきであると指摘している。地域で暮らし続ける上で、医療・介護基盤は不可欠であるし、人口が減少しつつある地域においてさえ、主要な雇用の場となっている。地域創生のためにも、介護職員確保のための施策が必要である。政府が政策判断をあやまらないことを願いたい。
 筆者は、老健局長時代に高齢者介護研究会を設置し、『2015年の高齢者介護』という報告書を取りまとめた。この報告書は、あるべき介護の姿を示すとともに、「地域包括ケアシステム」を記した最初の政府の文書であり、今日までの介護政策の指針の役割を果たしてきた。今日、その15年を実際に迎え、10年というものがいかに早く経過するか驚かざるを得ない。

 現在、我々は、25年という更なる10年に向けての大事なスタート台に立っている。残された時間は少ない。目標に向けて、回り道をしている余裕はなく、最短コースで進まなければならない。今回の介護報酬改定は重要で、そこで十分な勢いをつけなければ、25年のハードルは越えられない。

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

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