こくほ随想

政権交代と一体改革の行方

社会保障と税の一体改革は緒に就いたばかり。医療・介護の制度改正は手付かずだし、低所得者対策としての消費税軽減税率・給付付き税額控除等の検討はこれからだ。消費税率引上げの施行についても、景気条項があり、不確定の要素が残る。

さらに重要な要素は政治の行方だ。昨年末の衆議院議員総選挙の結果、またまた政権が交代し、自民党・公明党の連立政権が誕生した。この政権交代が一体改革の推進に影響を及ぼすのかどうか、気になるところだ。

総選挙では、自民党(294議席)と公明党(31議席)が、衆議院480議席の3分の2をも上回る議席を獲得し、圧勝した。とは言え、自民党の得票率は、小選挙区で43%、民意をより反映すると見られる比例区では28%にすぎない。わずかな風向きの変化でこれだけの議席の変動が起こる。小選挙区制ならではの結果だが、社会保障制度にとっては頻繁な政権交代は決して望ましいものではない。制度の安定性を損なういちばんのリスク要因だからだ。

ただ、その不安もなんとか収まる気配だ。政権交代後も3党は、社会保障・税一体改革の路線を継続するとしている。そう、一体改革における3党合意の最大の成果は、「社会保障を政争の具にしない」ことの合意だったのだ。これは歴史的にも高く評価される画期的なことである。

さらに、「社会保障の充実・機能強化と財政健全化の同時達成を目指すこと」、「年金、医療、介護は社会保険制度を基本とし、社会保障の公費財源は主に消費税によって賄うこと」、「改革に必要な事項について社会保障制度改革国民会議において検討すること」、「今後の年金制度と高齢者医療制度については、あらかじめ3党間で合意に向けて協議すること」などの合意も一体改革を推進する上で大きな成果である。

ただし、3党間の政治的な力関係は大きく変化した。改革のイニシャティブを取った民主党は、かろうじて第2党にとどまったとは言え、わずか57議席にまで激減、第3党の日本維新の会の54議席と大差ないものになった。しかも、維新の会の比例区の得票率は20%で民主党の16%を上回り、政策的な類似点があるみんなの党の得票率9%を合わせると、両党の得票率は29%で自民党の得票率を上回る。

このことは、たとえ3党合意を堅持するにしても、今後の改革に多かれ少なかれ影響を及ぼすことになるのではないか。

たとえば、年金制度と高齢者医療制度の改革に関しては、政治的には民主党案の実現可能性は遠のいたとみるべきだろう。一方、維新の会は、公的年金の賦課方式から積立方式への移行、年金目的特別相続税の創設、消費税の地方税化など、3党合意の路線とは大きく異なる政策を公約に掲げている。

しかし、その維新の会も消費税増税は是認している。総選挙の公約において消費税増税に反対していたのは、みんなの党(18議席)、未来の党(9議席)、共産党(8議席)、社民党(2議席)など、いずれも少数政党である。消費税増税についても政治的には受け入れられつつあるとみてよいのではないか。これも一体改革を推進する大きな要素である。

改革の選択肢は限られ、問題が直ちに解決するような抜本改革はありえない。そういう認識が定着しつつあるようだ。

それを実感するのは、社会保障・税一体改革の検討から総選挙に至る過程での全国紙等のマスメディアの論調である。かつては政党間の対立を煽る偏った報道があったが、最近ではかなり冷静な報道に変わりつつあるように思う。その結果であろうか、今回の総選挙では、近年では珍しく社会保障が争点にならなかった。これも大きな変化である。

対話と協調により着実な改善の途を探る。そういう成熟社会に向かってほしいものだ。


記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

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