こくほ随想

医療制度改革にみる民主党の政治力

民主党が天下を取って、ぼつぼつ十カ月目がくる。圧倒的多数で衆議院を制し、飽きがきていた自民党を一蹴した。しかし、今、民主党への期待は「どこに行ったのやら」という感じである。熱烈な民主党支持者だった人も、少し戸惑っている感じで、ただ、冷めた眼で、事態の推移を見守っているという人が多い。

その理由はいろいろと挙げることができるだろうが、率直にいって、民主党は自民党とはちがうと思っていたのに、手法の多くは自民党と大差ないし、選挙の票集めの方法は、旧田中派とあまりちがわない。総理は思ったような歯切れのよさはなく、何かモタモタしている。鳩山色はほとんど出ていない。ここ一番になると幹事長が出てくるし、その幹事長にたいして党の大半が「腫れものにさわる」ような状態である。新進気鋭という面がまったくなく、保守の権化のような幹事長をガードしているのは、労働組合幹部のOBである。国民の画いていた民主党とは、まったくちがうイメージである。この結果、国民は虚脱したような状態で民主党を眺めていて、五月末には内閣は変わるのかなと思ったりしている。

こういう状態になったのは、それなりの理由があるのだろうと思うが、私たちの眼から見ると、何か格好のいいことをいいすぎて、実際には、どうも齟齬を来している。

民主党は自分の政策に自信を失いつつあるのではないかと思う。野党であったときには政策議論も活発で、それなりに「マニフェスト」もつくったのだと思う。しかし、現実の政治は理論とはちがう。そのちがいは党全体が理解しているわけではない。机上でプランをつくれても現実にはとてつもなく大変である。

高齢者医療の問題ひとつをとってみても、評判の悪かった「後期高齢者医療制度」はあっさり中止したが、実際はあの案が出てくるまでには約十年間検討されており、あれ以上のものはちょっと考えられなかったと私は思っている。あの案自体は当時の自民党が再考することにしたわけではあるが、あれ以上の案を考えるとすると、あとは健康保険を一元化して老人医療に対応させるというような荒療治に近いものしかない。しかし、この健康保険の一元化は正論だけれどもこれを実施するためには莫大なエネルギーを必要とするし、消費税を10%アップするぐらいのエネルギーを必要とするだろう。単なる思い付きと政策とは別のものであり、行政施策の実施というのは簡単ではないのである。

民主党がモタモタした印象を持たれている原因の大きな部分に対官僚の問題がある。官僚が問題なのは、キャリア資格があるというだけで、退職後も渡り鳥のように次々と役人のつくった組織にうつり、そこでまた高額の給料と退職金を受け取る。しかもその組織はこれといった仕事もせず、その組織の費用は国民の税金から支出されている。これをやめさせねばならない。

しかし、役人を全く使わないという法はない。いまの日本では、頭脳的に最も勝れた人たちの何割かは役人になっている。これらの人を上手に使うのが政治家の仕事である。いくら民主党の先生方がよくできるといっても大臣を含めて四人ぐらいで行政を全部運営するなどというのは不可能である。にも拘らず財務省以外の役所では「政治家と官僚が遮断されており、自由に行き来することさえはばかられるふん囲気である」という官僚が多い。

古来、洋の東西を問わず、先進国(その時代の)では優秀な官僚がいて、それに乗っかった形で政治は行なわれてきた。失礼ないい方かも知れないが、政治家の先生がいくら「できる」といわれても、それは政治家としてできるのであって、千手観音のように何でもできるわけではない。どうも「上手に使う」という意識が民主党には少ないように見える。

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

 

 

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