こくほ随想

ふたりの食卓/Share Your Heart

世界の死因、第一位はなんでしょうか?

これは某大学の特別講義で(管理栄養学科)発した質問ですが、残念ながら正解者はゼロでした。戦争、感染症と答えたカンの良い学生がいた事は嬉しい限りですが、将来の保健指導人材としては、やや社会疫学の視点が不足しているのも事実です。

正解は毎日2万5000人以上が生命を失っている飢餓、死者の多くは5歳未満の子ども……と言った途端、学生たちに困惑の表情が走りました。20歳前後の彼らには、飢餓は想像を絶する響きだったのでしょう。

ちなみにFAO(国連食糧農業機関)の飢餓の定義は、「食料を充分に入手できず、慢性的な栄養不足になること」です。栄養状態の判断基準のひとつは基礎代謝率(Basal Metabolic Rate=BMR)で、FAOでは食料エネルギー摂取量がBMRの1.54倍未満の人を栄養不足=飢餓と判定します。

ただし、BMRは体重や年齢による差異が大きい事から成長期の子どもは適用外。10歳未満の場合は体重1kgあたりの食事エネルギー必要量を設定し、基準未満を飢餓と判定しています。以上の計算では、世界の子どもの4人に1人は慢性的な飢餓状態にあり、日に1万4000人以上の子どもが飢餓を原因として亡くなっています。学生たちのあいだに哀しみの表情が浮かびます。

が、静かなる飢餓、隠れた飢餓の概念に話が及んだ途端、「専門家」の血が騒いだようです。食事エネルギー摂取が充分でも、ビタミンやミネラルなどの微量栄養素が不足する本質的な栄養不良は「静かなる飢餓」に相当し、先進国でも増加傾向にあります。世界で20億人以上が該当すると専門家は警鐘を鳴らしています。

「新型インフルエンザなどの感染症リスクが世界中で広がっているということですね」と、一人の学生が発言。にわかにポジティブな空気が教室にあふれてきました。彼らは既に「日本人の低栄養状態」を学んでいますので、静かなる飢餓の拡大・低栄養リスク・感染症拡大という図式が像を結んだわけです。

では、具体的な解決策とは何でしょうか。

今年の11月16日からローマで、FAOは各国首脳による食料サミットを開催。2025年までに世界から飢餓を根絶する目標を掲げ、国際的枠組みを検討しますので、日本も応分の負担という展開になるのは確実です。が、一方で相対的貧困率がOECD(経済協力開発機構)30ケ国中4位の日本は、国内の格差是正を優先すべきという批判が生じやすいのも確か。実際、学生からも同様のつぶやきがもれてきました。

が、日本は年間6000万トン近くの農作物を輸入。他の国の「土と水と労働力」に依存して胃袋を充たしていますので、「受益と負担バランス」は当然でしょう。で、最後に、日本発の飢餓問題解消プログラムとして世界で注目されている『テーブル・フォー・ツゥ(TFT)』運動を教室で紹介しました。

社員食堂などで730キロカロリー未満のヘルシーメニューを選択すると、一食代金の中から20円が途上国の子どもの学校給食に贈与される仕組みです。つまり、先進国で暮らす私たちが一食とるごとに、途上国の子どもたちが生命をつなぐことが出来るというプログラム。『テーブル・フォー・ツゥ=ふたりの食卓』は時空間を超えて、豊かな国と途上国とが食を分かち合い、生命を分かち合うというコンセプトです(詳細はNPO法人TFTの公式サイト参照)。 Share Your Heart―――講師の解釈を聞いた学生たちの顔に、笑みがあふれました。

 

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

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