こくほ随想

公益ビジネスのデザイン力

今回は人口問題をベースに、健康政策のソーシャルマーケティングを考えましょう。

直近データでは2015年、高齢者人口比は27%に達します。ただし、既に人口規模の小さな自治体の多くは同30%台に達していますし、中山間地域では35%超も珍しくありません。むしろ大都市圏の方が例外で、日本では実質的に3人に1人が高齢者の時代に到達しています。

一方、出生率と死亡率が99年と同水準で推移した場合、今世紀末の総人口は4,300万人程度まで縮みます。ご承知の通り、現在の合計特殊出生率1.37が(厚生労働省/人口動態統計08年概数)、「人口置換水準」を大きく割込んでいるためです。3年連続で、「出生率」が上昇しているとはいえ、08年の死亡者数114万人超は(前年比/約3.4万人増)47年以降最多ですし、自然増減数もマイナス5万人以上と過去最大に。日本は、ひたすら人口減少社会を加速させているわけです。

ちなみに「人口置換水準」とは文字通り、人口が維持される合計特殊出生率をさしますが、日本は世界最高水準の2.08。理由は日本の乳幼児死亡率が世界一低いからで、アフリカなどの乳幼児死亡率が高い国では4以上に跳ね上ります。

ともあれ、日本の合計特殊出生率がヒタヒタと「1」に近付いているのは明白で、全国最下位の東京都は1.0台にまで落ち込んでいます。過去の傾向でも、全国の出生率は東京都水準を後追いしていますので、父母の間に産まれる子どもが「一人」ということは一世代ごとの人口半減を意味します。また、祖父母世代と孫世代を比べると人口は4分の1になります。

が、こうした未来の姿は、実は70年代半ばまでには可視化されています。「置換水準」を割込んでから30年以上が経過しているのですから。では、現代の社会システムは「縮みゆく日本」に対応しているでしょうか。たとえば、万人の願いである健康づくり政策はどうでしょう。確かに介護保険、後期高齢者医療保険は用意されましたが、果たして制度だけで市民の健康寿命延伸需要を満たすことが可能といえるでしょうか。

結論から言うと、制度の充実は「大きな政府」が前提となり、人口減少下の財源担保問題からも健康づくりの一般化、社会化を進める健康増進サービス産業の創出に自治体が積極的に関わる時代といえます。ヒントは、ソーシャルマーケティングに基づく、以下の三つに整理できるでしょう。3人に1人以上が高齢者となる社会に必要なモノ・コト・サービスとは何か。不況時でも消費が伸びているカテゴリーとは何か…と考えて行けば、選択肢は広がるはずです。具体的には--

  1. 高齢者・予備群の健康増進需要/人生80年時代では生涯9万食が必要で、生活習慣病蔓延にともなって「食」の健康機能需要が増大(80年代/スポーツドリンクやウーロン茶ブーム。90年代/緑茶飲料、ブレンド茶ブーム。00年以降/特定保健用食品、体重抑制機器・サービスブームなど)。

  2. 根拠に基づく健康づくり(evidence based healthcare)への欲求/捏造番組問題も追い風となり、長寿健康科学に基づくモノ・コト・サービス需要の拡大(健康度合を可視化する機器・サービス・人間ドックなどの予防医学関連プログラム、食育ブームなど)。

  3. 健康投資ライフスタイルの一般化現象/医療崩壊の加速、相次ぐ健保組合の解散が示す健保会計の悪化で「病気になれない社会」が到来(グラム単価5倍以上の食用油や同7倍以上の雑穀米などが市場拡大しているほか、富裕層を囲い込む会員制健康クラブが次々と登場など)。

以上を踏まえると健康増進サービス産業のベクトルは、健康投資マインドが強く可処分所得の高い中高年層を主軸に構築。その果実を広範に分光する「公益ビジネス」のデザイン力が、自治体に求められています(続く)。

【著者E-mail】 hirabayashisagj@m5.gyao.ne.jp

 

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

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