こくほ随想

社会保障費用の安定財源~社会保障国民会議の行方~

 昨年末のわが国の借金は地方公共団体とあわせると838兆50億円、国民1人あたり、655万円と財務省は報じた。次世代が担う国家的負債は刻々と増える一方だが、国の財産ともいえる社会資本と社会保障は、若い人の将来を支えるに足る蓄積があるのだろうか? また、若い人に夢と希望を与える社会への舵取りを日本の政治はしているだろうか? 成人年齢の20歳を欧州諸国並みに18歳に下げるという議論も出ているが、日本の政治の方向、特に社会保障の将来決定に若い人の意見が反映されているようには見えない。
 昨年、与党は強行採決までして高齢者医療費の窓口負担を1割から2割に引き上げたが、すぐ後、70歳から74歳の自己負担増を1年間凍結することに与野党が合意した。これにより世代間の負担格差是正でもある高齢者医療改革の一歩は後退し、約1、200の穴は補正予算で埋められることになった。新たな支出を増やしたわけで高齢者の票におもねる選挙準備と勘ぐられても仕方ない。
 少子化対策として多様な子育て支援策がPRされるが総額は小さく、社会保障費全体での高齢者関連と児童や家族関連の給付の差は約15倍もある。年金給付が大きいので当然だが、子どもは選挙権がなく、20代や子育て世帯は選挙になかなか行かないから票に結びつかない。それを良しとするかのような高齢者中心の政治風土は改まらず、構造改革という威勢の良い言葉だけが踊り、若い世代に活気と希望は戻ってこない。小手先の治療で後回しにされた経済と社会保障は、手術が遅れてますます重態に陥っている。
 この2月の参議院予算委員会での社会保障についての集中審議では、社会保障関係費の伸びを毎年2、200億円削減するのは限界であることを厚生労働大臣が明らかにした。高齢化が一層進展し、経済発展やGDPの上昇は期待できない中、社会保障の持続を可能にする財源と負担のあり方を示すことは、今こそ政治的急務である。古くは2000年10月の社会保障構造の在り方について考える有識者会議報告書「21世紀に向けての社会保障」、2006年5月の「社会保障のあり方に関する懇談会報告書」、昨年秋の「経済財政諮問会議」でも社会保障と財源、社会保障の給付と負担のあり方が検討され、「社会保障と税の一体的・整合的見直し」とともに「受益と負担の世代間の格差是正」が常に提言されてきた。
 昨年の税制調査会は、基礎年金の国庫負担割合の引き上げ分には消費税を当てるしかないと結論を出したが、政治的に消費税の本格的議論は先送りされてきた。そこで今、次世代につけを回さない安定財源の確保を広く国民にアピールするため「社会保障国民会議」が開かれている。2009年の税制改正の議論の始まる今年6月に中間報告が出されることから、今度こそ、現実の動きにつながる提言内容が期待されている。
 いかなる政策や制度にも受益者と負担者が存在し、その意義とコスト、財源の出所には明確な根拠が必要だ。社会保険としての年金制度の綻びを安易に消費税に頼るのは許されないが、制度改革が間に合わない人口構成の急変への応急措置なら、すべての世代の負担となる消費税も致し方ない。また子ども世代の犠牲による快適な老後生活など望まないよう、高齢者世代への理解を求めるのも政治の役割である。
 消費税を社会保障費のどこにどのように導入するか、これからの議論の方向が注目されるが、北欧先進国が消費税を社会保障費に大きく取り入れているのには、世代間への配慮というそれなりの根拠がある。児童や家族への給付も教育費を含めて高齢者関係の3分の1から半分と次世代の生活保障も大事にされている。「子孫に美田を残さず」はよいが、せめて若い世代を押しつぶさないよう「子孫に負債を増やさず」を日本の政治と国民の見識に期待したい。

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

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