こくほ随想

「かかりつけ医か総合医の誕生が再び議論される」

 介護保険によってかかりつけ医という言葉がかなり国民に定着した。介護保険認定の際、高齢者はかかりつけ医の意見書を必要とするからだ。しかし、その実態の関係は「かかりつけ」とはかけ離れており、申請書類を書いてもらっただけというのが多い。
 昔の一家のかかりつけ医といえば、ちょっとした怪我から腹痛まで治し、夜の往診もいとわず、子どもや年寄りのいる世帯にはとてもありがたい存在だった。山間部や離島の診療所の医者は、今でも自分の専門と違っても、骨折から盲腸まで何でもこなさなければならない。まさに総合診療そのものだが、近頃の研修医には、大学病院より多様な臨床経験を積める地方の診療所や開業医での研修を選ぶ卵たちが増えているらしい。
 人の生活に密着したプライマリケアを目指す医師が増えることは良いことで、20年ほど前、厚生省は「家庭医制度」の立ち上げを考えたことがあった。当時の医師の専門化志向の高まりと開業医の高齢化への対策だったが、アメリカの家庭医やイギリスの一般医をモデルとしていた。しかしうまみがないと医師会は反対し、この案はつぶれた。
 そして、開業医も胃腸科、小児科など専門医としての看板を掲げ、今に至っている。患者は近所の開業医から大学病院まで、病状に応じてというより、単に好みで医療施設を選ぶ贅沢に慣れてしまった。欧米諸国は家庭医の診察後の紹介状がないと、県や州の総合病院での検査や手術を受けられないシステムが多い。高度な専門的医療はフリーアクセスどころか、日本よりはるかに選択性や利便性、平等性は低い。
 さて厚生労働省は医療構造改革の中、「医療政策の経緯、現状および今後の課題」として、再び「かかりつけ医」「総合医」の制度化へ動いている。これは4 月17日、医療費適正化計画に向けて都道府県担当者に示したもので、「開業医の役割重視」として、後期高齢者医療制度開始にあわせて新たな在宅診療体制を構築するため、開業医を駆り出そうとしている。特に、長期療養の高齢者のための「在宅主治医」として位置づけ、療養支援において中心的役割を担ってもらい、休日夜間救急センターへの交代勤務や携帯電話での対応などを期待している。
 同様に4月23日の「医療施設体系のあり方に関する検討会」は、地域医療支援病院の役割とともに「医療連携体制の中でのプライマリケアとそれを支える医師の位置づけ・役割」についての議論をまとめた。かかりつけ医の機能・役割は、「複数の領域の基本的な疾病に対応しつつ、患者の病状に応じて、専門医、病院などへ適切につないでいくことができる」「診療時間外においても患者の病態に応じて患者またはその家族と連絡が取れるようにする」「医療機関の機能分化、連携が進んだ場合、転院などの際、患者と医師の関係が途切れないよう、患者の立場に立ってつなぐ役割を果たす」「病院から逆紹介を受けた患者の術後管理、日常的な保健予防活動、生活管理などを適切に行う」「意識の面では患者の生活を全人的にみていく」など、患者と家族の生活を守る地域の家庭医の姿として描いている。
 しかし、高齢者が主治医を選ぶということは、地域の開業医に登録し療養管理を受け、それを診療報酬として定額制で支払う、登録人頭支払方式となろう。そこでまた医師会は、登録制度は患者のフリーアクセスと開業医の自由開業医制を阻害することになり、24時間体制は、開業医の診療負担や疲労を招くと反対している。
 総合医、在宅主治医、家庭医、登録医、総合診療医と、呼び方は何でも良い。新たな開業医の果たす役割は、今後の後期高齢者医療の方向を左右する重要なポイントとなる。いずれにしても、高齢者や子どものいる世帯のいざという時の強い味方であってほしい。

記事提供 社会保険出版社〈20字×80行〉

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