こくほ随想

「離婚時の年金分割に寄せて」

離婚時に夫婦間で厚生年金を分けあう「年金分割」の制度が、来年4月から導入される。では、もしも離婚した場合、相手からいったいどれぐらいの年金をもらえるのだろう??。その年金額を事前に通知するサービスを社会保険庁が10月から始めたところ、この一か月で6、000件を超える相談があったという。うち、実際に試算を請求したのは約1、300人。その9割が女性といい、関心の高さをうかがわせた。

離婚時の年金分割制度は、2004年年金改革で導入が決まった。結婚期間中の年金保険料は夫婦が共同で納めたものとみなし、離婚後に厚生年金を分け合う仕組みだ。最大で相手の厚生年金を半分、受け取れる。

とくに女性が専業主婦の場合、離婚後はわずかな自分の基礎年金しかなく、生活が困窮しがちだった。外で働いていたわけではないが、家庭の中で働いた「内助の功」は評価されない。そこで、その貢献を評価し、女性の老後の生活保障を充実させようと導入された。同様の制度は、ドイツ、カナダ、イギリスなどでも既に実施されている。

以前、年金分割に関する取材をしていたときに、「年金縛り」という言葉を聞いて驚いた覚えがある。50歳代、60歳代、70歳代などの中高年女性たちが、離婚したくても、自分の年金額があまりに少ないために別れられない、という状態を指す言葉だった。

これはあまりに不幸なことだと思うが、確かに、女性が外で働くのがそれほど当たり前でなかった時代に生きてきた女性たちもいる。また、出産、育児などで自分の厚生年金を持つことができず、たとえ持てても少額になりがちな女性の場合は、「年金縛り」となるのもあながち大げさともいえない。ちなみに、厚生年金の平均受給額(2004年度末、新規裁定だけでなくすべてを含み、本人名義の基礎年金も含む)は、男性は月約19万円。これに対し、女性は月約11 万円。外で働く期間の短さや賃金格差が、年金受給額に如実に反映されている。

分割フィーバーはかなり高まっているようで、それが最近の離婚件数に表れている、との見方もある。ずっと上昇傾向にあった離婚件数は、2002年をピークにここ数年、減り続けており、それは来年の制度導入を待っているからだ、というのだ。

ただし、分割制度にあまり過剰な期待を抱くと大変なことになる。一階の基礎年金部分は既に分割されており、二階部分の厚生年金の男性の標準的な受給額は月10万円程度。最大この半分が分割されても、老後の生活を賄うのに十分とはとてもいえないだろう。

夫の死亡にかかわらず、自分が生きている間は年金が終身振り込まれる分割制度の導入の意義は大きい。年金分割が実現する前には、財産分与の形で年金額が分けられるケースもあったが、これだと夫が死亡してしまうと、受け取ることができなかったからだ。現在の分割制度はまだまだ不十分だが、女性の老後保障の観点から見て、一歩前進といえよう。

ところで、婚姻中に夫婦が共同で築いたものを分け合う、との考えに立てば、分割するのは何も老齢年金だけに限らない。個人のものはもちろん別だが、老齢年金以外の年金や財産も対象になると考えるのが普通だろう。その意味で、婚姻法自体を改正して、企業年金も含む結婚期間中に築いたすべての財産を分け合うドイツの制度は参考になる。ドイツでは、1977年に法改正し、今では分割制度はすっかり国民生活になじんでいると聞く。もちろん、制度に万全なものはなく、いろいろ問題もあるようだが、先行実施している国々の経験を謙虚に聞き、自国の制度改正に役立てるのは重要なことだと思う。

来春、離婚件数が伸びるかどうかを注目しているシンクタンクなどは多い。その前に、謙虚に、自分の生活を振り返ってみることも必要かもしれない。

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