こくほ随想

「医療制度改革審議入り」

4月に入って、医療制度改革関連法案が審議入りした。今回の法案の狙いはズバリ、給付費抑制といえる。厚生労働省試算では、現行制度のままだと2025年度には56兆円にまで膨らむ給付費が、さまざまな抑制策により、48兆円程度に収められるとした。抑制策として掲げられた内容は、短期的には、高齢者の自己負担増などであり、中長期的には、生活習慣病対策や長期入院是正などである。

今回は、生活習慣病対策について考えてみたい。

生活習慣病は、ご存じのように、動脈硬化、高血圧、がん、糖尿病など、働き盛り以降によく起きる病気の総称だ。加齢とともに増悪して脳梗塞、心筋梗塞などを起こし、入院に至るケースが増えており、国民医療費の約3割、死亡数割合では約6割を占めるといわれる。これを早期発見、そして予防することができれば、医療費抑制に役立つというわけだ。法案では、生活習慣病対策が医療費抑制の主眼の一つに位置づけられており、将来的に2兆円程度の抑制が見込まれている。

厚労省では、生活習慣病患者とその予備軍を、2025年度時点で、現在より25%減少させるとの政策目標を打ちたて、国が示す基本方針のもとで、都道府県が策定する都道府県医療費適正化計画で、生活習慣病の患者の減少率や実現に向けた健診目標などを設定するとしている。地域における医療連携体制を構築し、各医療機関が全体の医療計画も共有するとしている。

生活習慣病対策で、国がお手本としてよく引き合いに出すのが、長野県だ。健康長寿県として知られ、男女とも平均寿命は全国でもトップクラスなのに、老人一人あたりの医療費は全国最低。まさに、医療の優等県として知られている。

ただし、この長野県でも、優等県としてうかうかしていられない、という話を聞いた。それというのも、同県の将来が危ぶまれるようなデータが発表されたからだ。

日本病院会の2003年の人間ドック調査で、糖尿病の兆候を表す「耐糖能異常」が全国で5番目に多く、肥満や高血圧も全国平均より上回るなど、生活習慣病を引き起こす異常頻度が軒並み高いことがわかった。これは調査に協力した限られた医療機関での比較ではあるが、これまでの長野県のイメージからすれば驚くべき数字には違いない。県内の医療関係者の間でも、生活習慣病の増加に目をとめ、手を打たなければ、と診療に力を入れる動きが見られる。

同じく健康長寿を誇った沖縄県で、男性の長寿全国1位が26位にまで落ちたのは、中年層に生活習慣病が広まったため、といわれる。こうした「沖縄クライシス」の二の舞を踏まないためにも、伝統ある保健指導などに一層力を入れ、今のうちに予防しておこうというわけだ。

ただし、生活習慣病のような、個人の嗜好や努力に左右される分野で、予防を政策的に位置づけ、実施するのは正直、難しい。現在の高齢者が、生活習慣病のリスクから逃れ、「いい生活習慣」を身につけていられるのは、贅沢なものを食べられない時代に生きたからであり、今の中年層にそれを求められるのか、という医療者の声もきく。だれだっておいしいものを食べたいし、歩くよりは車に乗ってラクをしたい。現在のライフスタイルの中で、生活習慣病の増加にどう歯止めをかけることができるか。自らのライフスタイルの中で、健康であることの重要性にどう気づいてもらうかが課題だ。

生活習慣病対策で国の思惑通りの財政効果が出るのかはかなり疑問だ。だが、個人の生活の質の点から見て、病気にならないに越したことはない。これは長野県ばかりでなく、全国共通の悩みである。各都道府県で、地域の気候風土や生活慣習などに即した予防対策に知恵を絞る必要がある。

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