こくほ随想

「医療制度改革(2)」
―わかりにくい高齢者医療制度―

二つに分断された高齢者医療制度

今回の改革の目玉は、なんと言っても新たな高齢者医療制度の創設であろう。これは、現在の老人保健制度では、財政主体と運営主体が分離され、責任ある制度運営ができていないといった問題を解決し、高齢者の医療費を公平に負担することを目的としている。

 

しかし、新たな高齢者医療制度は、二つに分断されることになった。七五歳以上の後期高齢者を対象とする後期高齢者医療制度と、六五歳~七四歳の前期高齢者を対象とする前期高齢者医療制度とにである。

 

都道府県単位で独立した後期高齢者医療制度

このうち、後期高齢者医療制度は、全市町村が加入する広域連合が都道府県単位で財政運営を担う、独立した制度として創設されることになった。当初、市町村を保険者にする予定でいたが、市町村が強く反対したことから都道府県単位の広域連合となった。

 

後期高齢者医療制度の場合、高齢者の自己負担は一割(現役並み所得者三割)とし、残りは、公費(約五割)、現役世代からの支援(約四割)、高齢者からの保険料(約一割)で賄う。現役世代からの支援は、国保・被用者保険が加入者数に応じて負担し、高齢者の保険料については年金から天引きする。

 

財政調整のための前期高齢者医療制度

他方、前期高齢者医療制度は独立の制度とはせず、財政調整の仕組みとする。つまり、前期高齢者は、これまで通り国保・被用者保険に加入したままで、前期高齢者の偏在による保険者間の負担の不均衡を調整する仕組みとして創設される。

 

しかも、同じ前期高齢者であっても、七〇歳未満の者は、これまでと同様に三割の自己負担とし、七〇歳から七四歳の者については、二割(現役並み所得者三割)負担にするという。厚生労働省の原案では、前期高齢者は一律二割とする予定であったが、「現在すでに三割負担していただいているものをなぜ二割に下げるのか」と総理に指摘され、七〇歳未満の者は三割負担とすることになったようである。

 

前回改革の遺恨試合?

このように高齢者医療制度が二つに分断されたのは、前回の医療保険制度改正の因縁を引きずっているからではないかと思われる。前回改正の際も、高齢者医療制度の創設が大問題となり、独立保険方式か年齢リスク構造調整方式かで大いにもめた。そのときの経緯もあってか、三年前に閣議決定された「基本方針」で、高齢者医療制度を二つに分けることが決定された。今回の改革案は、この基本方針に従った案ということになる。

 

わかりにくい制度構成

それにしても、わかりにくい制度である。前期高齢者について財政調整が可能なら、後期高齢者もそうすればよいし、後期高齢者のために独立の制度を作るのなら、前期高齢者も一緒にすればよいはずである。しかも、現役世代の支援は、いずれの制度も頭割りにするというのだから、余計にそう思えてしまう。

 

このような制度は、加入者にとってもわかりにくい。六五歳になると前期高齢者医療制度に加入するものの、自己負担も保険料負担も変わらない。ところが七〇歳になると同じ制度のままなのに、自己負担が三割から二割に軽くなる。さらに七五歳になると、後期高齢者医療制度に加入することになり、自己負担は二割から一割に軽くなるが、保険料負担も変わる。特に、健保の被扶養者は、新たに保険料を負担しなければならなくなる。

 

説明責任を果たすべき

このようにわかりにくい高齢者医療制度は、どちらかの方式に一本化すべきであり、国会審議でもこの点についてきちんと議論をして欲しい。それでも一本化できないというのなら、せめて、国は、二つの制度に分断しなければならない理由を、国民に対してきちんと説明すべきである。

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