こくほ随想

「滞納問題を考える(3)」
―給付率引下げも1つの方法―

天引きは最良の滞納解消策

前回まで、国保と国年を中心に滞納の問題点を考えてきたが、では、滞納を解消するためにはどのような方策が考えられるだろうか。

 

周知のとおり、健康保険や厚生年金といった被用者保険では、滞納が極めて少ない。その最大の理由は、被用者保険の場合、事業主による保険料の天引き制度があるからである。筆者の場合も、毎月の給与から自動的に社会保険料と所得税・住民税が控除されており、その重さにため息をつくことはできても、その支払いを拒むことはできない。それでは、農業や自営業等の非被用者からも保険料を天引きすればよいのだが、非被用者の場合には非被用者自身が事業主と同じ立場であるため、自ら所得を申告し、申告された所得に基づいて税や社会保険料を賦課するという仕組みになっている。

 

徴収方法が不公平?

それでは、被用者と非被用者とで保険料の徴収方法に不公平があるのではないか、という疑問が生まれる。これに答えるには、二つの方法が考えられる。一つは、被用者についても天引きを止め、申告納付にするというものであり、他の一つは、非被用者に対しても天引き制度を導入するという方法である。

 

実際、諸外国の中には、被用者について、社会保険料どころか、税についても天引きではなく申告納税制度を採用している国もあるようである。しかし、わが国で被用者も申告納付にすれば、被用者保険でも保険料の滞納が増え、その財政基盤を危うくしかねない。むしろ、非被用者についても、できる限り天引き制度を導入する方向で考えるのが現実的ということになる。

 

介護保険では天引き制度を導入

このため、二〇〇〇年にスタートした介護保険制度では、老齢退職年金の額が年十八万円以上の第一号被保険者については、介護保険料の特別徴収制度、つまり天引き制度を導入することにした。この場合には、社会保険庁や共済組合といった各年金保険者が事業主の役割を果たすことになる。これによって、第一号保険料の八割は天引きで徴収されることになり、その結果、第一号保険料の収納率は九八・四%という高い率になっている(二〇〇二年度)。ただし、天引の対象とならない普通徴収の収納率は九一・九%と低くなっており、ここには国保と同じ問題が残っている。

 

また、現在検討が行われている高齢者医療制度でも、年金からの保険料天引き制度の導入が予定されている。

 

給付率の引下げも一つの方法

問題は、保険料の天引きができない滞納者に対する対策である。現在、国では市町村に対して「収納対策緊急プラン」の策定を指導しており、口座振替やコンビニ収納の勧奨、資格証明書の計画的発行等の収納対策強化策を打ち出している。それでも納めない場合には、最終的には強制徴収に訴えることになるが、滞納処分をしても滞納保険料が全額徴収できるとは限らない。

 

では、他にどのような方法が考えられるであろうか。一つは、罰則の強化である。国保保険料(税)の場合、延滞金の規定はあるが、滞納自体に対する罰則はない。ただ、これについては、延滞金をかけた上で罰則を科すのでは二重の処罰になるのではないかという懸念がある。

 

次に、悪質滞納者に対する給付率の引下げが考えられる。前々回述べたように、介護保険ではすでに給付率の引下げが制度化されている。もっとも、介護保険の給付率引下げ制度は、被保険者が必ずしも要介護者・要支援者になる訳ではないという同制度の特性を踏まえたものと思われるが、拠出と給付の対応関係、すなわち拠出なければ給付なしという社会保険の考え方を貫けば、国保に給付率引下げ制度を導入することも検討に値するのではなかろうか。

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