こくほ随想

「総選挙の結果と医療保険改革」

自民党の歴史的大勝

九月十一日に行われた衆議院議員総選挙の結果は、自民党が事前の予想をはるかに超える二九六議席を獲得するという歴史的大勝で終わった。これに公明党の三一議席を加えると、与党で衆議院の総議席の三分の二を超えることになり、争点の郵政民営化法案について仮に参議院が否決しても、衆議院で再議決して成立させることができるまでになった。

 

これほどまでに大勝した原因については、小泉流劇場型政治の勝利であるとか、郵政民営化という国民に分かりやすい争点を提示したからだとか、様々なことが言われている。それはさておき、本稿では、今回の選挙の結果が、来年に控えた医療保険改革にどのような影響を及ぼすかを考えてみたい。

 

強まる官邸主導の政策決定?

今回の総選挙は、自民党議員の一部が郵政民営化法案に反対し、同法案が参議院で否決されたことに端を発する。これに業を煮やした小泉総理が、周囲の猛反対にもかかわらず、郵政民営化に対する民意を問うという大義名分を掲げて、衆議院の解散に踏み切った。しかも、郵政民営化に反対した議員に対しては、党の公認を与えないばかりか、自民党公認候補を対抗馬として擁立した。

 

このような手法は、意見を異にする者をむしろ幅広く許容してきた従来の自民党的体質とは相いれないものがある。小泉総理は、今回の総選挙を契機に、自民党を、利益誘導型の政党から政策中心の政党に変えようとしているのかもしれない。そう考えると、これからは、政策決定に関する官邸の主導権が強まり、利益集団や族議員の影響力は弱まるのではないかという見方が有力となる。

 

総理がどこまで関心を持つか?

これに対し、郵政民営化のように総理自身の関心が強いテーマについては強力なイニシアティヴを発揮するが、そうでないテーマについては党や官僚に丸投げをするという見方がある。もしそうだとすれば、今回の医療保険改革が総理にとってどの程度関心のあるテーマかで官邸の主導力がどこまで発揮されるかが決まることになる。

 

医療保険改革の基本方針に沿った改革

そもそも、今回の医療保険改革は、三年前の医療保険改革の際に規定された健保法の附則に基づき、二〇〇三年三月に閣議決定された「医療保険制度改革の基本方針」を受けて行われるものである。今回の選挙で自民・公明という当時の与党体制が維持・強化された以上、この基本方針に沿って改革が行われることは間違いない。問題は、改革の具体的内容である。今回の選挙では、もっとも注目される高齢者医療制度の創設にしても、自民党、公明党ともに制度の創設を約束するだけで、その具体的内容は明らかにしていない。

 

高齢者・若齢者という利益集団

高齢者医療制度の創設は、増え続ける高齢者の医療費を、誰が、どのような形で負担するかというのがポイントである。具体的には、高齢者と若齢者の負担割合をどうするか、また、若齢者同士の間では、サラリーマン(健保グループ)と、農業・自営業者等(国保グループ)が、どんな割合で、どのような形で負担するかが争点となる。そういった意味で、高齢者医療制度の創設は、高齢者と若齢者、そして健保グループと国保グループという利益集団の衝突でもある。

 

官邸主導にふさわしいテーマ

しかし、若齢者もいずれは高齢者になり、サラリーマンも失業すれば国保グループに加入するのであり、これらの利益集団は国民の一時的な姿でしかない。そう考えれば、この問題は、各集団の利害を超えて、どのような負担のあり方がもっとも公平かを、国民的立場に立って判断するしかないことになる。そして、これこそが官邸主導にふさわしいテーマのはずであり、早い時期に大局的な立場に立った総理の判断が下されることを期待したい。

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